私はいつものように接客をしていた。
お客様からは「可愛いね」「何歳?」「デートしない?」など私の容姿を褒めたり、口説いてくるような男性が結構いてた。
高校までは地味だった私が、社会人として働き始めてから先輩方から化粧の仕方を教わり、お洒落の仕方を学んでからは生まれ変わったように人生がパァーッと開け始めてきた。
黒髪だった髪も栗色に染め、何年もお世話になった眼鏡を外し目にはヘーゼルカラーのカラコンを入れ、服装もそれまでは露出することに抵抗がありパンツスタイルにTシャツやパーカーといったラフな格好を好んでいたけど、今では膝上10cmほどのスカートに身体のラインがわかるようなニットやカットソー、ブラウスを着るようになった。
成人式の日、見た目が大きく変わった私のことに気づいた男子は殆どいなかった。
そのかわり「めっちゃ可愛いけど、ホントに中学校の時に居たよね?」「もしかして、武田さん?すっごく可愛くなったね。」など過去の自分にはなかった光景が目の前で繰り広げられた。
この日はハーフカップブラに胸元がパックリと開いた白色のワンピースを着ていた。
スカート部がギャザーになっていて、ヒラヒラ感が私はとっても気に入っていた。
「あっ、店員さん、彼女に服をプレゼントしたいのですけど、どういったものがオススメですか?」
この手の質問は、男性の一人客に多かった。
「お誕生日か何かですか?」
「えっ、あっ、はいっ、、、」
彼の返事はどこかよそよそしかった。
「彼女さんの普段着ておられるお洋服のサイズはわかりますでしょうか?」
「うーん、わからないのですが、店員さんと同じぐらいの身長ですけど、ちょっと後ろを向いて立ってもらえますか?」
(何で後ろ向き?)って思ったが、彼の言われたように私は壁に向かって立ち、彼の方に背中を向けた。
時間にして約5秒ほど二人の間に沈黙が走った。
「ホント店員さんと同じぐらいのサイズです。ありがとうございます。」
彼は丁寧に言葉を掛けてくれたが、振り返って彼の目を見ると視線がおぼつかなかった。
やたらと下を向いていた。
私は(照れているのかな?)と一瞬思ったが、あまりの彼の挙動不審さに警戒心が芽生えてきた。
「店員さんが着ているようなワンピースは置いてますか?」
私は彼の動向を気にしながら、自分の着ているワンピースが置かれているブースに彼を案内した。
「この服可愛いですよね。店員さんにすっごく似合ってます。」
褒められたことで気を良くした私は、先程まで抱いていた警戒心が一気に揺らぐのを感じた。
「こちらが私が今着ているワンピースの色違いになります。同じような感じでやや丈が短めなのがこちらになります。」
彼は真剣に洋服を見ていた。
「もし店員さんが着るとしたら、どのワンピースを選びますか?」
「私だと、、、これかな?」
そう言って手にしたのは、薄いピンク色をしたサテン地で作られたワンピースだった。
ドレスというほどテカリ感はなく、ツルッとした感じの光沢が上品さを醸し出し、スカート丈が短いことから可愛らしさも兼ね備えていた。
「これ可愛いですね。店員さんに着てもらって見せてもらうことは可能ですか?」
たまにこういうお客さんも居てた。
商品を買っていただくためにはお客さんの要望もきちんと聞くようにと毎朝の朝礼で言われている。
「あっ、はい、いいですよ。」
そう言って手にしたワンピースを持って試着室の中に入った。
入口のカーテンを閉めて、正面に備え付けられている全身鏡の方に身体を向けて着替え始めた。
私は急いで着替えていたが、鏡の中に映る景色にどことなく違和感を感じた。
カーテンの裾が微かだが、ヒラヒラと揺らめいていた。
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