30分近く、そうやって走っていたと思う。
ふいに、「ちょっと休んでいい?」そう尋ねられた。
あたしは「いいですよ。」と頷く。再び心臓の鼓動が強くなって、下半身が熱くなり、バッグをぎゅっと握りしめる。
彼はウィンカーを出し、ハンドルを回すと、車は夜空の下妖しく佇むホテルの駐車場に入った。
「ここでいい?」
「うん…。」
ネイルチップに気をつけながらドアを開け、揃えた脚から外に出る。あらわになっている肌に感じる冷気。バッグを左手で提げ、右手をそばに来た彼の左腕にからめる。メンズの香水が仄かに香ってから、手が温もりに包まれる。ピンヒールの不安定さを意識しながら、一歩一歩ホテルのエントランスに近づいていく。自動ドアがいつもより大きい音で開いた後、「いらっしゃいませ」という機械の声がして、あたしたちはホテルに入った。
『…とうとう来ちゃった。』
目の前の壁に掛かった部屋を選ぶボードを見ながら、初めてラブホテルに入った時のことを思い出していた。
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