その日はお互いに連絡先を交換し、数日後美穂からゆっくり話しがしたいと連絡があり、待ち合わせの場所に車を走らせた。
美穂は身長170センチと高身長で、人混みの中に居てもすぐに美穂だとわかった。
駅前のロータリーでクラクションを鳴らすと、気付いた美穂は小走りで駆け寄り車に乗った。
「せっかくの休みにごめんね。」
「彼女とのデート断って来たんで!有り難く思えよ!で、話って?」
俺が笑いながらそう言うと美穂は俯き身体を震わせていた。
暫く車を走らせ高台の公園に車を止め窓を開けシートを倒すと、美穂は重い口を開いた。
「健二の心に決めた人って誰やったん?」
「何の事だ?」
「篤に聞いたよ!健二にはそんな女おるからわしらは応援しなきゃなって!」
「篤がそう言ったのか?」
「うん。篤に告られて…。断ろうと思ったけど…そう聞いたの。告白も健二に背中押されたって…。」
篤の気持ちを信じていたがそこまでして美穂を自分だけのものにしたかったのかと、何とも言えない怒りが込み上げてきた。
「俺は…。」
美穂の大粒の涙が溢れる目を見て俺は言葉が出なかった。
「あの馬鹿野郎が!」
いろいろな思い中やっと言葉が出たが、美穂は子供の様に泣きじゃくった。
少し落ち着きを取り戻した美穂は再び重い口を開いた。
「私の過去…。知ってるんでしょ…?私がどんな女か…全部知ってるんでしょ?」
「さあ、過去の事なんか興味ないな。今一生懸命頑張ってるんだから。それでいいんじゃないか!」
「綺麗事言わないで!正直に言ってよ!」
美穂は見たことのない顔で叫び、車のドアを開け外に飛び出した。
すぐに美穂を追いかけ、腕を掴み抱き寄せたが美穂は気がふれた様に暴れ、美穂の肘が俺の鼻に直撃した。それでも美穂を落ち着かせ様と力強く抱きしめた。
「ずっと心配してた。お前の過去は噂で聞いただけだ。過去なんてどうでもいい。こうして出会えたんだ。だから…。」
「け…健二…。あ…逢いたかったー。」
美穂は俺にしがみつき、積もりに積もった思いを泣きじゃくりながら吐き出した。
それから落ち着きを取り戻した美穂は帰り道の窓の外を見つめ、時折涙を溢れさせ言葉を出す事はなかった。
「今日は有難う。取り乱してごめんね。」
美穂はそう言葉を残し車を降り、振り向く事もなく人混みの中に消えた。
その日は美穂から連絡はなく、翌日いつも通り会社に出勤した。
「中川、お前その鼻…。大丈夫か?」
昨日美穂に肘打ちを喰らった鼻は腫れ上がり鼻筋も曲がっていた。
「空手の練習で…。大丈夫です。」
そうは言ったが客先周りの仕事もあるので上司は病院へ行く様にと昼から休みをくれた。
美穂の勤める病院に行くと骨には異常はなかったがズレが有り、矯正で真っ直ぐに治して貰った。
「美穂ちゃん病院辞めるみたいよ。院長先生に連絡があって、院長先生は引き留めたみたいだけど。」
待合室で会計を待っていると若いナース達のそんな話し声が聞こえた。
「今病院。仕事辞めるってどういう事?」
直ぐにメールを送ったが返事は返って来なかった。
「俺は美穂の同級生です。美穂の家教えて下さい。お願いします。」
会計する時に受付の女性に必死に頭を下げ、美穂のアパートの住所を聞き出した。
車でアパートに駆け付け、インターホンを鳴らすと泣き疲れた美穂がドアを開けた。
「どういう事だよ!なんで病院辞めるんや!何があったんや!」
「帰って…お願い…。そっとしてて…!」
玄関に入り美穂を問い詰めると、美穂は泣きじゃくり、俺の胸を両手で押した。
「なんで泣く!泣いてばかりで…訳わからんわ!」
「い…嫌ー!」
美穂の腕を掴み身体を押し返すと、美穂は昨日の様に悲鳴を上げ気を失った。
「み…美穂!お前…美穂に何をしたー!」
美穂が崩れ落ちた時、ドアが開き後ろから男が俺に飛び掛かってきた。
「け…健二君…。な…何故君が…。」
男は美穂の親父さんで、その後ろにお袋さんが立ちすくんでいた。
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