病院に着くと美穂は入り口に立ち、不安げに俺を待っていた。
「どうしたんや?どこか悪いんか?」
「健二!落ち着いて!私もまだ何も聞いてないの!」
「わ…わかった…。ちょっとびっくりしてな…!悪い悪い!」
その場で大きく深呼吸をし、美穂に連れられエレベーターに乗り診察室に向かった。
「初めまして。美穂さんの主治医の田中です。」
「初めまして。中川健二です。よろしくお願いします。」
「本来ならご家族以外にはお話ししないのですが…。今の美穂さんの状態から判断して貴方をお呼びしました。どうぞ、座って。」
診察室に入ると年配の女医さんが迎えてくれて、俺と美穂をソファーに座らせた。
「大事なお話しだから二人ともしっかり聞い下さい。」
俺の身体中に力が入ると美穂も俺の腕を力強く掴んだ。
「美穂さんはここ数ヶ月で驚くほど回復しています。夜もぐっすり眠れる様になって、体重も増えて女性らしい身体つきになってきました。更に美穂さんの身体も少しづつだけど普通の女性に戻りつつあります。今回の微熱もそれが原因です。総合的に考えて、もう美穂さんの通院治療は必要ないと判断しました。美穂さん…良く…良く頑張ったね!この日が来る事を…ずっと願ってたよ…。美穂さん…。」
淡々と話した先生だったが、最後は積もりに積もった思いと一緒に涙を溢れさせた。
「せ…先生…。有難うございます!」
美穂は立ち上がり先生に駆け寄ると、先生は美穂を抱きしめ頭を撫でた。
泣きながら抱き合う二人の姿の裏には壮絶な治療があっただろうと、俺も涙が止まらなかった。
「通院治療も一つのストレスだったよね。まだたくさんストレスが美穂さんにのしかかってるの。これから二人でそれを解放して行くの。」
「はい。先生、有難うございました。」
俺は涙を拭きながら立ち上がり、深々と頭を下げた。
帰りはささやかなお祝いで晩御飯を食べようとファミレスに寄った。
「みほ、親父さんとお袋さんに報告してあげなきゃ。」
俺の言葉に美穂は笑顔で頷き、注文を済ませると席を外し、お袋さんに電話をかけ先生からの話しを伝えた。
「健二…。有難う。お父さんもお母さんも泣いて喜んでくれた。健二のおかげって!それと、私達に逢いたいから週末にこっちに来てもいいかって。」
「大歓迎だよ。とりあえずご飯食べよう。!」
「有難う!うん。お腹すいたね。」
週末の事をいろいろ話し、追加オーダーもしてお腹いっぱいになるまで食べ、食後のコーヒーを飲んでいると元気のいい子供達が店内を走り廻っていた。
「健二、見て。可愛いー!男の子、双子ちゃんよ。」
美穂はその子供達を見て身を乗り出した。
その子供達は何故か美穂の横で走るのを止め、美穂の側に来た。
「可愛いね。何歳?」
「よんさい。」「よんさい。」
二人はそのまま美穂に抱き着く仕種を見せ、美穂は二人を優しく抱き寄せた。
「ま…まあ、この子達ったら…。他人に甘える姿初めて見たわ。ごめんなさいね。」
子供達の姿を探していた母親はその光景に驚いていた。
美穂が頭を二人の頭を撫でると子供達は美穂の手を握り、母親の呼びかけにも応えず美穂の手を離さなかった。
「ママが呼んでるよ。いい子だから、お利口にするのよ。」
美穂が声をかけると二人は可愛い笑顔を見せ、お母さんに抱き着いた。
「素敵なお姉さんに甘えられて嬉しかったみたいです。有難うございました。」
母親は頭を下げ、子供達は何度も何度も振り返りながら席に戻って行った。
その時、もし俺と美穂に子供が出来たら、美穂は絶対に優しい母親になれる。その姿は頭の中に浮かび上がり、そうなって欲しいと強く願う俺が居た。
「お父さん、お母さん週末来てね。今健二といろいろ話して、美味しいもの食べに行こうって。うん。楽しみにしてる。あっ!ちょっと待って…!健二が大事な話しもあるって…。う…うん…。じゃあまたね。」
会計を済ませて店を出て美穂がお袋さんと話し終わった時、美穂の耳元で囁き、美穂はそれを二人に伝えた。
「健二…。大事な話って…何?」
帰り道美穂は不安げに聞いて来た。
「そんな顔するなよ!心配するな!帰ったら話すよ!」
「うん。わかった。」
笑顔でそう答えた俺の顔を見て美穂も安心したのか、可愛い笑顔を見せた。
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