ありがとうございますっ(^人^)
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「みんなまじで彼氏いないの?めっちゃ可愛いのに!」
「そぉなの~超寂しい~」
「じゃあ今日はぁ~俺たちの出会いにぃ~」
「カンパーイ!!ウェーーイ!!」
カチンカチンッとグラスがぶつかり合って、合コンが始まった。
目の前には4人の女性陣が座っている。
右から…
まつげがすごい。
爪がすごい。
網タイツがすごい。
語尾の伸ばし方がすごい。
申し訳ないけど、僕は彼女たちにひとつも魅力を感じることが出来なかった。
あや姉の化粧は好きだな。
いつも、彼女に似合う綺麗な色を使っている。
お花みたいな良い香りもするし。
「ねぇねぇ、テンション低くない?」
「えっ…あ、ごめん。ぼんやりしてた」
「ちょ、こんな可愛い子たち前にして何ぼーっとしてんだよぉ!」
バシンと友人の直哉に叩かれる。
まつげがすごい理緒ちゃんは、さっきからやたらと僕に絡んでくる。
「えぇ~合コンとか嫌いな感じ?」
「…嫌いって言うか、あんま来たことない」
「ふーん、もしかして女に不自由してない系?」
「…ごほっ…ち、違っ」
ビールを吹き出しそうになった。
「なに、照れてんのぉ?可愛いんだけど~」
こぼれたビールを慌てて拭くのを見て、理緒はケラケラ笑った。
「そうなのよー理緒ちゃん!こいつ何か知んないけど、よく可愛いって言われんだよね。
なんだお前は!そのポジション狙ってんのか!!
可愛い顔しやがって腹黒い奴め~~」
グニニッと頬を引っ張られる。
「い、痛いって…僕はそんなつもりじゃ…」
「え~侑人くん、僕っ子男子なの?やばい、可愛いんだけど~」
そう、僕は昔から女性に『可愛い』と言われることが多かった。
おそらく小さい頃からあや姉にべったりで、いろいろ構ってもらってきたせいで、どこか弟気質というか、世話をしてあげたくなるオーラが出ているのかもしれない。
こんなんだから、成人してもあや姉に子ども扱いされてしまうんだろうか。
「でもでもぉ、こういう可愛い系の男子が、夜は結構強引だったりするんだよね~!」
「やだぁーギャップ萌えー!!」
「何、お前そうなの?夜はすごいの!?」
「ちょ…本当勘弁してよぉ…」
みんなの高いテンションに圧倒されながら、僕はなるべく目立たないように壁にもたれ掛かる。
「それで?実際どうなの?可愛い系男子の恋愛ジジョーおしえてよぉ」
「そ、そんな面白い話なんてないよ」
「じゃあ今は恋愛してる?好きな子とか」
「…いるよ。好きな人は」
即答してきたことに驚いたのか、理緒はバッサバサのまつげをパチパチ動かしながら僕を見ていた。
「あ…ごめん、こういう場でそんなこと言うの…失礼だよね…ごめん」
「別にぃ~好きな人くらいいても良いんじゃない?それに、侑人くんの恋愛、あんまり上手くいってなさそうだしぃ」
「えっ…」
「好きな人がいるからって、他の女と遊んじゃダメってわけじゃないじゃん」
「まぁ…そうだけど…」
「真面目だなー。まじで、ちょっと強引に行っても良いんじゃない?案外、ギャップ萌え~ってなるかもよ」
「そんなことしたら嫌われるよ!」
「…まぁ嫌われるのは怖いけどさぁ、何もしなかったら何も進まないし!
片想いこじらせてんじゃないよー!!」
バンバンと背中を叩きながら、理緒は楽しそうにビールを飲んでいた。
「じゃあ、僕こっちだから」
「えー!?帰るのかよぉ、久々に会えたのに冷たいんだからぁ~」
ベタベタと酔っ払った直哉が抱きついてくる。
「ごめんって、また飲もう。おやすみ」
みんなに謝りながら僕は駅に向かう。
コツコツコツコツ…
「ねぇ、何で付いてきてんの?みんな二次会行ったよ」
高いヒールなのに器用に小走りしながら、理緒がニコニコと付いてきていた。
「だって、侑人くんともっと話したいもん」
「僕はもう帰るので」
「ねぇ!あと一軒だけ!行こうよぉ」
ガシッと腕を掴まれ、柔らかい胸が押し当てられる。
「居酒屋でも良いし…なんならホテルでも理緒は良いよ?」
上目遣いで引っ張られながら、僕はタジタジになった。
「あ、の…僕の話聞いてた?好きな人いるって」
「でも片想いなんでしょ?上手くいってなさそうだし…溜まったりしない?」
理緒はさっきとは違って、甘い声を出してくる。
「大丈夫ですっ」
「やだぁ~照れてるぅ。ねぇ~いいじゃん。理緒、結構良い仕事するよ。試してみてよぉ~」
あや姉とは種類の違う甘い匂いに、頭がクラクラする。
「理緒も、可愛い侑人くんが夜はどうなるか知りたーい」
「知られたくないです」
「知りたいでーす(笑)」
そんな押し問答が繰り返されていたが、不意を突かれて理緒に唇を奪われてしまった。
「っ…!んっ!んんー!」
くちゅっ…チュッ…むちゅ…
昨夜のあや姉とは違う、柔らかい唇。
あったかい舌が僕の中に入ろうとしてきた。
「…っっ!!や、めろって!!」
グイーッと理緒を押し離す。
悪びれるどころか、キョトンとした顔で僕を見ている。
「あ、あの!こういう考えって古いとか、ダサいとか思うかもしれないけど!
でも、やっぱこういうことって、自分が好きな人とする方が良いと思う!
ぼ、僕は悪いけど理緒ちゃんのこと好きじゃないし、理緒ちゃんもちゃんと好きな人とだけした方が良いよ!
も、もっと自分を大切にするって言うか…自分の気持ちも、身体も大切にしないと…あとから後悔することもあるかもだし…!!」
ハァハァと思いを吐き出すと、周囲の人にジロジロ見られていることに気がつく。
「そ、それじゃ、置いて帰るようで申し訳ないけど、僕はこれで!」
ズカズカと駅の方に向かいかけて、言い忘れていたことを思い出し、踵を翻す。
「まつげ!普通の方が可愛いと思う!おやすみ!!」
ポカンとしたまま、理緒は小走りで去っていく
侑人の背中を見送った。
「わーお。真面目な上に天然たらしの素質まであるのかよぉ」
クスクスと笑いながらスマホを取る。
「もしもーし。そ、フラレちゃったぁ。どこで飲んでんの?オッケ、今から行くわ~
あ、つけま外してくけどちゃんと識別してよね(笑)
違う違う、ちょっと「シンキョーの変化」ってやつ?そうそう、でねー」
電車の中で、ゴシゴシと口を何度も拭いた。
くそぉ…あや姉とのキスが…なんか上書きされた気分!悔しいっ!!
でも、夜なのに置いてきて悪かったかな…
まぁ最後に男として的確なアドバイスもしたわけだし、それで許してもらおう…
あんなまつげ…こっちに刺さりそうでめっちゃ怖いよなぁ…
電車にから見える住宅街の灯りを見ながら、少しでも早くあや姉の近くに帰りたかった。
つづく
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