グループ”女豹“を追え その4
どーもまだ股間に違和感がある。
俺が身を捩らせながら食堂でコーヒーを飲んでいると、先輩の田中さんがやって来て向かいの席に座った。
田中さんは開口一番
「お前、随分と面倒くさい案件に関わっているそうじゃないか」
と嬉しそうに俺を茶化した。
「何言ってるんすか?」
「俺、ヤバかったんすよ!」
と真剣に怒ると
「悪りい、悪りい」
と言いながらまだ、笑っている。
すると、間髪を入れずに顔を寄せてこう言った。
「何かさ、ウチと法務省で綱引きをしてるみたいだぜ」
と一転、厳しい顔で言う。
俺は
「法務省? 何であんなところと・・」
と言い掛けると先輩は
「大物同士の意地の張り合いって噂だ」
と教えてくれた。
大物?
俺には何の事やらさっぱり分からない。
俺は特命課に戻って、いつも暇そうにしている杉山さんに聞いた。
「大物って誰っすか?」
杉山「何ですか? いきなり」
「ほら、あの・・俺を指名したあの」
杉山「小野寺官房長ですか?」
「そう、その官房長、ともう一人」
杉山「もう一人?」
「法務省の・・」
杉山「石原さんの事ですか?」
「そう、その石は、らって・・」
「何で知ってるんですか?」
杉山「彼らは東〇大学法学部の同期ですからねえ」
「いや、て云うか何で俺が関わらなきゃならないんです?」
杉山「さあ?」
「あっ、あのね!・・」
と、俺が切れそうになったところに、鑑識課の米倉さんが何やらDVDを持って来て
米倉「相変わらず暇そうですな」
杉山「そう見えますか?」
と楽しそうにお喋りを始めやがった。
俺は呆れて部屋を出て行こうとすると杉山さんが
杉山「同伴の予定内容を貴方へメールで送って置きますから」
と言った。
なに、同伴?
俺は後ろを振り返ると、杉山さん達は落語の話で盛り上がっていた。
「しかし、同伴とは敵も洒落た事をしやがる」
と独り言を言いつつ、俺は不覚にも少しワクワクしてしまった。
時刻は、もう夕方だ。
俺は敵との待ち合わせ場所へと向かう。
次はどんな罠が仕掛けられているのか。
そんな戦々恐々とする俺の肩を、後ろからポンっと叩く奴がいた。
「誰だ?!」
俺が叫ぶと
俺だよ、と言われた。
同僚の伊橋だ。
伊橋「おめえ、何やってんだよ?」
と言う。
俺は
「何をやろうが、俺の勝手だろう!」
と、言い返すと
「お待たせしました」
と言う女性の声がした。
二人して振り返ると、白いワンピースを着てゆったりとした鍔の広い帽子を被った美女が居た。
伊橋「おっ、おい、あれ、誰だよ!」
と奴が聞くので
「おめえには関係ねえだろ!」
と言って、彼女には
「いえいえ、こちらこそお待たせしちゃって」
と、伊橋に自慢して二人で歩き始めた。
俺は、伊橋の野郎、ざまあみやがれと心で思って彼女に聞いた。
「あの、美冬さん・・ですね?」
「はい、あの、鈴木さんですよね」
と、綺麗な声で応えてくれた。
俺は伊橋の手前、のこのこと彼女に付いてきてしまったが、少々無警戒過ぎたかと悔やんだ。
彼女は外で食事などをせずに、このまま店に行こうと言う。
仕方なく俺は彼女に付いて行った。
二度目のクラブ舞台である。
俺は緊張した。
さて、奴らはどんなお出迎えをしてくれるのか。
そんな俺の杞憂が吹き飛ぶ位に、あっけない歓迎ぶりであった。
「いらっしゃいませ。 鈴木様でございますね」
「彼方へどうぞ」
と、黒い服の男が奥の、いかにも特別っぽいテーブルへ案内してくれる。
そして何も注文をしていないのに、これまた高そ~な酒が出て来た。
これはやばいかもと、いつでも店を飛び出せる態勢を整わせる前に、化粧を直して真っ赤なドレスに着替えた美冬がやって来た。
美冬「ようこそいらっしゃいませ」
「先程は失礼を致しました。 美冬です」
と挨拶をした。
物凄い美人である。
先程の彼女と同一人物かと疑ってしまう位の変わり様だ。
背は170㎝程か。
小さめのバストの谷間と背中が大きく開いたドレスに身を包んだその姿は、レッドカーペットの上を歩くハリウッドスターを彷彿させる。
濃いブラウンの髪をアップにした顔は涼やかに美しく、人の限界と思わせる程に小さくバランスが取れている。
俺の顔は一瞬、呆けて居たのであろう。
彼女が言った。
美冬「あの、どうされました?」
微笑みを携えた顔は更に美しい。
俺の背中に戦慄が走った。
流石に日本一の美女戦士たちである。
俺は一瞬たりとも気を抜いては負けだと悟った。
「あっ、ど~ぞど~ぞ、ここ? はいはい、ここ空いてますよ~」
と隣の席を彼女に促した。
彼女は
美冬「失礼いたします」
「本日はお忙しいところ、よくぞお出で下さいました」
と、深々と礼をして隣に座った。
だが俺は後の事を、よく憶えていない。
彼女の妖しくも気高い香りと美しい横顔に勧められて、酒を一杯飲んだ所までが微かに記憶に残っていた。
つづく
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