その17
「木田さん、ここで怪我が悪化すれば私と木田さんが2人で頑張ってリバビリしている意味が無くなりますよ。わかりますか?」と、冷たい表情で言われてしまい、気不味い雰囲気になった。
谷崎さんは無言のまま肩を貸してくれ、私がソファに腰を下ろすと、すぐに夕食の準備に取り掛かった。
私に手伝える事も無く、ただテレビを眺めていたが時々谷崎さんの顔色を伺っていた。
15分程の調理を終えると、「もう怒ってないから大丈夫ですよ」と言われ、小さな子供が怒られた母親の許しを得たような感覚に陥り、泣きそうになってしまった。
不意に「お風呂入って行きますか?」と言われ、ぜひと答えてから、1人では入れない事に気付き、どうしたものかと考えていると、夕食のパエリアが出来上がった。さすがにお酒は止めておき、谷崎さんだけがワインを飲んだ。料理が美味しく、食後のシャーベットまで手作りであり、久しぶりの手料理に気持ちが温かくなるようだった。 つづく
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