その16
深い緑のワンピースを着た谷崎さんが襖を開け出てくると、「本当にお待たせしちゃて、ごめんなさい。今日は、手作りの夕食で罪滅ぼしします。お口に合うか判らないけど」と笑った。私は、そんな谷崎さんを見て、最初に感じた淫靡な妄想は微塵も無くなり、久しく無かった激しい恋心を感じていた。
その日は、予約しておいた大衆フレンチでランチを食べ、話題になっていた邦画を観終わる頃には、空が薄暗くになっており、谷崎さんの家に戻る事となった。
アパートの鍵を開けながら「実は、夕飯を作るのを朝に思い付いちゃって慌てて買い物に行ったら、時間に間に合わなくなってしまったの。本当に朝はごめんなさい」と谷崎さんが言った。
私は胸が高鳴り、この女性が好きなんだと確信した。
谷崎さんに靴を脱がせてもらい、松葉杖を預けると、廊下で肩を貸してくれた谷崎さんを抱き寄せてキスしようとした。
しかし、片脚でする行為では無かったと後悔しながら、派手に転んでしまい、谷崎さんまで巻き添えにしてしまった。
私に覆いかぶさる形になった谷崎さんは、直ぐに足の具合を確認して、安堵の表情を浮かべたが私に向けられたのは、怒りの表情だった。 つづく
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