《50》
亜美が高校を卒業する。
美穂と俺が知り合った歳になった。
亜美が夢を教えてくれた。
医者になりたいそうだ。
母親の様な事を少しでも減らせる医者になりたいそうだ。
涙が止まらない。
歳を取ったせいか最近は涙もろい。
京都の大学の医学部に入学が決まった。
今までは俺みたいなクズを寄せ付けない様に目を光らせていたが、大学はアパートで一人暮らしだ。
心配が尽きない。
亜美の大学進学を機に俺も実家を離れた。
美穂と一緒に暮らしたアパートに戻りたかったが、取り壊しが決まっていて、入居する事は出来なかった。
思い出がまたひとつ消えていく。
進学して半年後、亜美が帰って来る。
「彼氏を紹介します。」
ウソだろ?
絶対認めないぞ!
「ただいま。」
『・・・・・・・』
「失礼します。」
『・・・・』
「お父さん。何か言ってよ。」
『・・・・』
「もう、お父さんってば!」
「お嬢さんとお付き合いさせて頂いています。隆司と申します。出身は大阪ですが、お嬢さんとは大学で知り合いました。私の方が1学年上になりますが同じ学部で・・・・」
「お父さん?」
『・・・・』
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
『え?』
泣いてた。なんだこの涙は。
「私がお付き合いするのがそんなにイヤなの?」
『あ・・・・違う・・・・』
「何が?」
『そうじゃない』
「そうじゃない?」
『すまん、明日にしてくれ。』
「大丈夫?」
『あぁ、大丈夫だ』
なんだこれ。
彼の顔を見たら泣けてきた。
娘を取られた悔しさじゃ無い。
娘が居ない寂しさでも無い。
彼に対する憎さでも無い。
意味がわからない。
自分の涙に気が付かないのは、人生2度目の経験だ。
次の日に改めて来てくれた。
「ただいま。」
「失礼します。」
『いらっしゃい。昨日は悪かったね。』
「いえ。」
「昨日はどうしたの?急に泣いちゃって。」
『分からん。なんかの病気かもな。』
「冗談でも止めてよね」
『すまん。』
マジに怒られてしまった。
「あぁ、アレか。娘が居ないのが寂しいとか?w」
『アホかw』
「正直に言ってみw」
『馬鹿な事言ってないで、さっさと嫁に行けw』
「いいの?」
『え?』
「あの~出来れば結婚を前提としたお付き合いの許可を頂ければと、思っていますが・・・・」
『マジ?』
「マジw」
『てか隆司君だっけ?古いなぁw親の許可なんて必要か?』
「もちろんです。それだけ真剣なんです。」
『あぁそうですかw』
「亜美さんからお母さんの事は聞いてます。うちも父を早く亡くし、母には厳しく育てられました。」
『そうか。女手一つじゃ俺より大変だっただろうな』
「そうなの。だからなのかな?価値観とかこだわる所が一緒なの。そう言う彼に魅かれるの」
『そうか。俺の時もそうだったが、親の許可より、本人達の気持ちが一番大事だ。』
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
『お母さんには報告に行ったか?』
「今から行ってくる。まずはお父さんに言わなきゃ怒るしw」
『怒らねーしw』
「じゃぁ行ってくる。」
『あぁ俺も後で行くって言っといてくれ。』
「分かった。言っとく」
『じーじとばーばにも会いに行けよ。』
「そっちは昨日行ってきた。」
『なんだって?』
「喜んでくれたよ」
『そうか』
「それじゃ」
『あぁ、気を付けてな』
「うん」
「ありがとうございました。それでなんですが。」
『ん?』
「今度、母に会ってもらえませんか。」
『あぁ、もちろんだよ。』
「義母さん、キレイな人なのよ。お父さん惚れちゃうかもw」
『アホかw俺はお母さん一筋だw』
「それは知ってるけど、お父さんも身を固めてくれると1人娘としては安心できるんだけどなぁ。」
『ムリだなw』
「もぅw」
喋り方が美穂に似てる。
知らないはずなのに
DNAか?
1カ月後
京都に行った。
隆司君の親に会うためだ。
向こうが田舎市に来ると言われたが、大阪の龍二と静香に会いたかったので、こっちから出向くことにした。
前日に大阪で2人と子供に会った。
長男は酒が飲める歳になっていた。
昔話に花は咲いたが、静香の前じゃ言えない事が多すぎたw
次の日に少しの二日酔いを連れて隆司君の親に会う為に京都のホテルのレストランで待ち合わせをしていた。
先に入ったので待っていた。
亜美が来て、俺の隣に座った。
こういう時って俺の隣なの?
次に隆司君が部屋に入ってきた。
続けて母親が来た。
お辞儀をして、顔を初めて合わせた。
愛美だ。
歳を取ってはいるが、一目で分かる。
驚いた顔をしてしまった。
愛美は涼しい顔をしている。
会話が頭に入らない。
何度も
「お父さん!聞いてる?」
亜美に怒られてしまった。
隆司君親子が一時退席した時に
「お父さんおかしいよ?どうしたの?」
『なんでもない。ちょっと疲れてるだけだ』
「義母さんステキな人でしょ」
『あぁ、ステキな女性だな。』
「あれ?珍しいね。女性を褒めるなんて。」
『そうか?』
「惚れた?w」
『いやぁ、無理だなぁ』
「様子もおかしいし、珍しく褒めたから義母さんを好きになったと思ったのになぁ~」
『だからぁ、俺はお母さんだけだってw』
「もぅそればっかりw」
昔、惚れてたんだよ。
「それじゃ、お父さん。私達はお買い物してから帰るけど、どこか行ってくる?」
『そうだな。昔勤めていた会社の関係でお世話になった人に挨拶してくるよ。』
「わかった。田舎市に着いたら電話してね。」
『おぅ』
2人は歩いて行った。
28年ぶりに2人きりになった。
「お久しぶりね。」
『あぁ。ビックリしたよ。』
「そう?亜美さんの顔見たら俺君の娘さんかな?って思ったよ?田舎市出身って聞いたし名字も同じだったし。」
『相変わらずキミはすごいね』
「そんな事ないよ?」
『俺も人の事言えないけど、結婚したんだね』
「えぇ、旦那は直ぐに亡くなったけどね。」
『寂しくないか?』
「えぇ?今から口説くの?w」
『違うってw』
「息子を取られた寂しさはあるかな?w」
『一緒だなw』
「あ、そうそう。お礼を言わなきゃね」
『なんの?』
「阪神の震災の時に来てくれたんでしょ?」
『どうだったかな?』
「母さんから聞いたよ。」
『あぁそうだった。近くに行ったからね。』
「相変わらず、優しい嘘をつくのね」
『なにを?』
「真琴にも聞いてるよ。」
『あーあ、バレちゃったw』
「心配してくれたんだってね。ありがとう。」
『心配しただけ。何も出来なかったよ。』
「それでも、聞いた時は嬉しかったのよ。」
『知らなくて良かったのにw』
「また会いましょうね。」
『会ってくれる?』
「今度は家族になるんだし、ね?」
『そうだね。』
あんなに嫌がった生SEX。
膣内出しをも受け入れられるくらい愛する男性が出来たんだな。
亡くなったのは残念だが、良かったな。
美穂
亜美は俺たちと同じ様に二十歳の誕生日に結婚する様だ。
身内だけだけど、結婚式も大阪でするらしい。
お前の命日だから、躊躇してたけど、
『気にするな』って言っておいた。
良いよね?
美穂
お前が逝って19年も経ったよ。
でもね
俺の女は
お前だけだ。
『完』
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