《49》
生まれつき心臓が弱かった、妊娠後の検査でこのままだと出産に心臓が耐えられる可能性は50パーセントだと言われた。
赤ちゃんを諦めれば、通常の生活は100パーセント大丈夫だと。
赤ちゃんを諦めたら赤ちゃんの命は0パーセント
私は両方とも助かる可能性に賭けたい。
あの人には黙っていて。
心配させたくない。
私は大丈夫、あの時に比べれば全然平気。
オフクロに残した言葉だ。
何が大丈夫だ!
全然平気じゃない!
多分、美穂が死んだのは俺の所為だ。
今まで女を穴としか思わず、嘘ばっかり吐いていっぱい泣かしてきた。
きっと神様が俺に罰を与えたんだ。
俺の命を奪えば良いのに、命より大切な俺の一番大事なものを奪われた。
残酷にも時間は流れる。
生まれて来た子の面倒も見なきゃならない。
落ち込んでる暇も無い。
死にたいと思う事も有ったが、美穂が命懸けで産んだ子供を置いては行けない。
まして道連れなど以ての外だ。
そう思えるまで1カ月以上掛かった。
両親や会社のみんなの助けもあり、なんとかなりそうだ。
美穂を紡ぐと言う意味で、
生まれた子供に「亜美」と名付けた。
亜美の躾は厳しかったと思う。
「母親が居ないからあの子は・・・」
などと絶対に言わせない。
反発される事も有ったが亜美は真っ直ぐに育ってくれた。
もちろん、俺の両親の力が大きかったが。
親父の提案で、実家で暮らす事を勧められていたが、美穂と過ごしたアパートを出る事に抵抗があり、断り続けていた。
しかし、亜美が中学校を私立に行きたいと言い出した。
俺には言わないが夢があるらしい。
私立の中学校に通う為にはこのアパートからじゃ無理があり、実家に戻る事になった。
引越しの荷物をまとめてダンボールに詰めていると、手紙を見つけた。
美穂の物だ。
「アナタへ
アナタがこれを読んでるという事は、私はもう、この世に居ないという事ですね。
アナタに逢えた日にアナタは言いましたね。
今より辛い事を期待してこの先、生きていけば今日の事は笑える日が来ると。
あの日より辛い事は有りませんでしたよ。
あの日を超える辛い事は無かったけど、あの日が有ったからアナタに出逢えましたね。
アナタに出逢えた幸せは私にとっても大きな幸せでした。
アナタとの子供が出来て本当に幸せでした。
子供の成長を見る事は出来ませんが、アナタなら大丈夫ですね。
アナタの口癖の大丈夫。
本当に私は救われました。
目をつぶっていると、アナタの笑顔が映ります。
あの日、死んでいたら、味わう事が出来なかった幸せを胸に頑張って来ます。
アナタを身体と心で感じながら。
◯月◯日」
最後のSEX日だった。
忘れる事が出来る日じゃ無かった。
12年前に出された最後のラブレター。
泣きながらアパート最後の日、寝てしまった。
本当に偶然だと思うが、美穂が死んで初めて夢に出て来た。
『久しぶりだね』
「そう?ずっと一緒にいたじゃない」
『そうだった?』
「そうよ。」
『そうかw』
「亜美も元気そうね。」
『うん、もうすぐ中学生だ。後6年で美穂と知り合った歳になるよ。』
「そうね。もう大丈夫だね。」
『何が?』
「私が居なくてもアナタは立派にやってるわ。」
『ダメだよ。美穂が居ないと寂しいよ。』
「アナタは大丈夫。」
『大丈夫じゃないよ。俺は美穂が居ないと・・・美穂は平気なの?』
「私は大丈夫。あの時に比べれば全然平気」
『止めてくれ。全然平気じゃ無い』
「私はアナタに救われた。大丈夫、アナタは大丈夫よ」
『ダメだよ。全然ダメだよ。』
「大丈夫よ。アナタは強い人だから。あの日私を救ってくれた様に。」
『ダメだよ・・・美穂』
「もう行かなきゃ。」
『待ってよ』
「大丈夫よ。いつでも逢える。」
『ホント?』
「ホントよ。アナタにウソ付いた事ある?」
『ウソは無いけど、黙ってた事が1度だけ』
「そうね。ごめんなさい。でも、また逢えるよ。」
『うん・・・・またね。』
「うん」
『あの時みたいだね』
「あの時もまた逢えたでしょ?」
『そうだね。』
泣きながら目が覚めた。
きっと俺の願望が見せた夢だろう。
願望でも何でもいい。
夢でならまた逢える。
夢でもし逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい
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