矢口、名字は覚えているが下の名前は覚えていない。
バスケ部のエースで、マリアの部活の先輩だ。
俺よりも4~5センチ背が高く、イケメンで女子生徒からは人気があるが、同時に悪い噂も多数ある。
その全てが女関係で、やれ卒業した先輩女子とヤりまくりだっただとか、同級生をとっかえひっかえだとか、後輩女子を無理矢理とか…そんな話ばかりだ。
「私は何度も断ったんだけど、部の先輩だし、強く言っても聞いてくれないし、女子の先輩は庇ってくれて今日も部活休めって言ってくれたりするんだけど…」
マリアの話は続いているが、俺はほぼ聞いていなかった。何故なら俺は前世?でマリアから同じ相談を受けていたから。
今思い出した。
『俺が頭をぶつけた日と同じ日だったとは覚えてなかったわ~
結局フルボッ○にしたんだよな…
そろそろかな?』
その時、俺達の背後から
「おい2年、お前俺の女に何してんだ?」
と怒声が聞こえた。
振り替えると、噂の矢口センパイがかなりご立腹な感じで、普段のにやけたイケメンヅラを歪めていた。
そう、俺は前世?でもこの場所でマリアから相談を受けて話を聞いている最中、部活に来ないマリアを探して来たであろうこのイケメンストー○ーに見つかり、逆上したコイツに不意討ちで殴られたことでキレてフル○ッコにして泣いて謝らせてやった…というかやってしまったのだった。
基本的に俺は平和主義者なのだが、あのときはマリアの顔を見て、こんな顔をさせるヤツに腹を立てていたことと、いきなり不意討ちを喰らったことにキレてしまったのだ。
まぁ、若気の至りってこと。
ただやり過ぎてマリアにまでドン引きされたんだよな…
だが、今回は俺は大人なので、何とか穏便に済ませて見よう。
「矢口センパイですよね。俺の女ってだれのことですか?」
「ここにマリア以外に女がいるか!」
「あなたの女とかなってないから」
と、怒るマリアを手で制して
「おかしいですね?今マリアからしつこいセンパイに付きまとわれて迷惑だって相談を受けてるんですけど、センパイのことですよね?」
「お前には関係ねーだろ」
「関係ありますよ。マリアが困ってるのなら友達としては助けないといけないですから。センパイ、嫌がる相手にしつこく迫るとかカッコ悪いですよ。止めとき…」
「うるさい!」
言い終わる前に殴りかかってきた。
キミ、カルシウムタリテナイヨ。
今回は殴られるのは承知の上なので、パンチは見えているし当たってやることもないけど、一発も殴られないで一方的取り押さえるのも正当防衛としては気が引けるので、とりあえず一発は殴らせてやるか。
矢口のパンチが俺の左頬に当たるが、見えているパンチをもらったところで大したことはない、が
「キャー、ゆうた!」
見ているマリアが悲鳴を上げる。ス○ーカー君がチョづくので黙っていてほしい…
次は左足で回し蹴り気味に蹴りが来た。俺は一度後ろに躱し、左前に距離を詰め、左手で蹴り足を掴んで前に押し、そのまま矢口を押し倒した。
そして馬乗りの体制、いわゆるマウントポジションをとって矢口を押さえ込んだ。
前回はここから顔面を殴りまくったのだが…あれは我ながらやりすぎだったと思う。
だが、ここからどうしようか…
下から手を振り回して矢口が暴れているが、この体制でいる以上大したことはない。
「センパイじゃ勝てませんから、諦めませんか?」
「なめんじゃねえ。どけよ」
とやり取りをしていると、いきなり矢口の顔面に茶色のローファーが降ってきた。
マリアが矢口の額を踏みつけたのだ。
「アンタ!ゆうたに何すんのよ!ゆうたに何かあったらたたじゃおかないわよ。…絶対に!許さないからッ!!」
俺がマリアの顔を見上げると、その目には涙が浮かんでいるが、顔は般若の形相だった。
その言葉を言い終わらないうちに再度足をあげ踏みつけようとする。
俺は慌てて矢口から離れ、マリアを抱き締めるようにして引き摺り矢口から距離を取った。
矢口は狙っていた女にいきなり顔面を踏みつけられ呆然としていたが
、俺が
「センパイもう帰ってもらえますか?」
と言うと、我に帰って立ち上がってこちらを睨み付けたきた。
しかし、俺に抱き抱えられつつも、泣きながら自分を睨みつけているマリアを見て諦めたのか、すごすごとその場を立ち去った。
俺は再度マリアをベンチに座らせ、ポケットティッシュを取りだしてマリアに渡したのだが、マリアは興奮が収まらないのか、なかなか泣き止む様子がなく、俺の肩に顔を押し付け、ずっと声を出さずに泣いていた。
「もう泣くなよ。俺は何ともなってない。大丈夫だ」
それでもマリアは泣き止まず
「だ、だって、…ゆ、ゆうたが……な…られた…わた…し、のせい、だか…ら…」
「バカ、マリアのせいじゃないぞ。友達が困ってたら助けるだろ。当然だ。それにわざと一発殴らせたんだからな。」
俺がそう言うと、マリアは突然顔を上げ
「わ…ざ、と?」
マリアが泣き止んだらしいのを見て、さらに
「ああ、殴らせないとアイツを取り押さえる理由もないだろ。だから殴らせ…」
「バカ!○んじゃえ!ゆうたのバカ!本気で心配したんだから!あんなことあったのに…また頭ぶつけたりしたら…とか…○ね。バカ!」
『○んじゃえ』から『○ね』のコンボいただきました…美少女の怒り顔コエー
マリアは更に泣き出し、俺の肩をポカポカ叩き出した。
俺は何かを言うのを諦め、マリアが泣き止むのを待つことにしたのだった。
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