保健室を出て教室に向かう。
既に時間は午後の授業中のはずだ。
俺は自分の教室『2年A 組』の前で少し緊張したが
『アレコレ考えても仕方ないし、この身体に戻ったのならC学生をやりきるしかないよな』
と踏ん切りをつけ、ドアをノックした。
少し教室の中がざわついた感じがした後、男の声で
「はい、どうぞ」
と返事があった。
『声の感じだと英語の高田だな』
とアタリをつけつつ、ドアを開けるとやはり英語の授業中だったようだ。
「すいません。病院に行っていて遅くなりました」
と遅刻の言い訳のように言って、俺が頭を下げると、高田は
「聞いてるぞ。大丈夫なのか?」
と訊ねてくる
「CTの結果は異常なしみたいです」
と答えると、席に座るように指示されたので、自分の席を探す。
窓から二列目の最後尾が空いていて、周りの席の本多マリア、高岡真吾、河村美和が手招きしていた。
『アイツらと並んで座ってたなー』
と思い出しながら、自分の席へ座り三人に聞こえるように
「心配かけたよな。大丈夫だから」
と声をかける。
真吾はニカッと、マリアはツンとしたそれでいて親しい者にはわかる感じ、美和はまだ心配そうに、それぞれ笑顔を送ってきた。
この三人は家も近く、小学校の時からの付き合いで、美和に至っては保育園からずっと一緒で同じクラスと言う幼馴染みと言う奴だ。
真吾は身長165cmくらい、やせ型で勉強よりもスポーツが得意で、一言で言うと明るいムードメーカー、悪く言うとお調子者だが、気のいい奴で俺とはウマが合う。
喋りも面白いので、女子からの人気もそこそこ、バレー部に所属している。
マリアは身長は真吾と同じくらい、少し高く167か8くらいだろう。父親が日本、母親がロシアのハーフで、スタイルは抜群、元は色白なのだが、運動好きで一年中軽く日焼けしている感じ、部活はバスケ部。
薄い色の金髪ショートヘアーで、目は薄茶色、見た目は超のつく美少女、男に対してはよく言えばクールビューティーとかツンデレ。
ただ、ツンデレというか…………
ほとんどデレがない。付き合いの長い俺達にだけ時々デレる程度。
しかもそれがわかりにくい。
まぁ、美和と二人だけの時に笑っている顔などは誰しもが見惚れてしまうほどで、男共からの人気は高いのだが、美少女過ぎるがゆえにハードルは高く、玉砕覚悟のアタックに踏み切る勇者もなかなかいないようだった。C学までは…の話だが。
美和は真面目な優等生タイプ、色は白く、肩で切り揃えた髪型がよく似合う吹奏楽部員。
身長は150cm前後で、ぽっちゃりタイプ…と見せかけた巨乳ちゃんである。
背が低く、胸と尻が大きいのがコンプレックスのようで、少し猫背気味にしているためにそう見えるが、実は結構なダイナマイトバデーだったりする。
推定Eカップの胸はK校卒業後にはJとかKとかまで成長する。
JKを卒業してJとかKと言うのは冗談ではなくマジな話だ…
割とおとなしい性格ではあるが、芯は強く大和撫子とは美和のような女の子のことだと俺は思っている。
ちなみにマリアほどではないが、美和も顔の造りは良く、美少女と言って間違いはない。
こちらはおとなしい外見によりハードルが下がるのか、よくコクられているようだが当時誰かと付き合っていた様子はなかった。
俺はと言えば、身長172cm、学校に柔道部がないので帰宅部員。
S4までは超肥満児だったが、S5で柔道を始めた頃からぐんぐん身長が伸びて体型はガッチリ型…というか、凝り性で筋トレとかもガチでやってたので結構なバッキバッキボディになってた。体重は多分63から65キロくらいだったように思う。
勉強は中の上から上の下くらい。運動は得意な方、あまりモテた記憶はない、嫌われてたとは思わない…が、実はモテモテだったと知るのは後の話だ。
その後、授業は何事もなく終わり、心の中で
『C学の英語ってこんなに簡単だったっけ』
と前世?では一応大卒の学歴を持つ中身33歳のおっさんの俺が思っていると、周りの三人が一斉にこちらを向いて「大丈夫か」と訊ねてくるのだった。
「病院で脳ミソ輪切りにして診てもらったけど異常はないみたいだ」
と、俺
「何よ。ソレ?」
とマリア
「マリア、多分CTの検査だと思うよ」
と美和
「医者が言うなら大丈夫だよな。心配したよ」
と真吾、三人が納得したような顔をした頃、俺と衝突したはずの太が近付いてきて
「ゆうた悪かったな。大丈夫だったか?」
と謝ってきた。
こいつはクラス一の巨漢で、身長178cm、体重は100キロオーバーなのだが『気は優しくて力持ち』を地で行くような奴で、真吾と同じバレー部だったりする。
「大丈夫だから気にすんな。むしろ倒れて受け身も取れない俺がマヌケなんだから、迷惑かけたのは俺の方だ。太が真吾と運んでくれたんだろ。それでお互いチャラにしとこう」
「そう言ってくれると助かるよ。サンキューな」
太は俺とそんな会話をして去って行った。
太が去った後、マリアがこちらをあまり見かけない表情で見ている
「何だよ。マリア」
「別に…ただ、珍しくゆうたがカッコいいこと言ってると思って」
「これがカッコいいとか…、お前の中で俺はどんな奴だよ」
「…優柔不断の筋肉バカ」
「ひどい…美和、慰めて」
「ゆうたくん、マリアに素直な優しさを求めない方がいいよ。今のは友達を許してあげたゆうたくんを褒めたんだよ。ゆうたくん風に言えばマリアのデレだよ」
「別にデレたわけじゃないか!ら!」
こんなやり取りをしているうちに授業が始まり、そして終わる。
クラスメイトはそれぞれ部活や帰宅のため教室を後にする。
俺も帰ろうと席を立ったところ、
「ゆうた、今日は何処かに寄るの?」
と聞いてきたのはマリアだった。
「いや、母さんも心配してると思うから真っ直ぐ帰るよ」
「じゃあ、一緒に帰ろう」
「何だよ。珍しい。部活はいいのか?心配してくれてるなら、ありがたいけ…」
「違うの、…頼みたいことあるから…」
と俺の言葉を遮って言ったが、最後の方は聞き取れない程の小声だった。
「わかった、じゃあ帰ろうか。」
マリアと一緒に教室を出て玄関へ、靴を履き替え、外に出てもマリアは無言だった。
学校から俺達の自宅のある方向は、橋を渡って帰るのだが、学校から住宅街を通るよりも堤防の上を歩いた方が近道になる。
俺はマリアと一緒に堤防を黙って歩いていたが、マリアから話を切り出してくることはなかった。
二人とも黙ったままで歩いていたのだが、堤防の下、河川敷の一部が整備され公園になっている場所に差し掛かって、俺は足を止め
「頼みたいことあるんだろ。少し話して行くか」
とマリアに言うと、黙って頷いて付いてくるので、そのまま堤防を降り、公園のベンチに座るとマリアもベンチに腰かけた。
マリアはS3の時に転校として同じクラスになってからの付き合いだが、当時は髪の色や容姿のせいでいじめられていた。
美和や真吾、俺がマリアを庇っているうちにマリアがどんどんキレイに成長していき、自然といじめはなくなった。
マリアはたまに俺達にだけ感謝を表すときがあったが、そんなとき俺が考えていたのは、俺達がマリアを助けたと言うよりも、マリアがキレイになりすぎて周りが変わっただけだと思っていた。
高嶺の花と言う言葉があるが、正にマリアがソレだったのだと思う。
今のマリアは当時と同じような沈んだ顔をしていた。
俺はマリアがそんな顔をしているのは見たくない。
どんなことでもマリアの力になろうと決めていた。
「誰かに何か言われたのか?」
俺が突然口を開くと、マリアは一瞬驚いたようでビクッとして、こちらを見ずに俯いたままで
「…うん。あのね、三年の矢口って人知ってる?」
と話し出した。
俺はその名前を聞いて思い出す。
『あの野郎の話か…』
と…
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