空はまだ明るいが、夕日を山肌が遮り 山道の所々に立つ街灯に明かりが灯る
ひとり またひとりと仕事終わりの連中が店に集まり出していた 大半が車だったが、当時はまだまだ、飲酒運転には甘い時代だった
ましてやこんな田舎では、そもそも取り締まる人間が圧倒的に不足していた
「いらっしゃい」
「とりあえず生と漬け物盛り合わせ」
客達は皆、思い思いの席に座り、つまみを待つ間、昼間の連中と同じく裕美子に視線を注いでいる
昼間、裕美子を仕事着のまま抱いた小上がりにも、此方を向いてひとり、冷酒を煽っている客が居た
昨晩 玄関先で秀之に悪態をついていた、十三だった
歳は五十を過ぎたくらいだろうか 短躯に猪首、太鼓腹で 髪は脂ぎり、無精髭を生やしていた 既に大分飲んでいるのだろう、鼻の頭が真っ赤だ
「裕美子、おい 裕美子、酒のお代わりだ」
横柄な口調で裕美子を呼ぶが、他に料理を運んでいて手が回らない 秀之が自分に目配せする
「はい、注文は冷酒で?」
「お前、なんだ?俺は裕美子を呼んだんだ、まったく…」
厨房に戻り、冷酒の栓を抜いていると、秀之が囁いた
「十三さんな、ちょっと気を付けろ…なるべく裕美子を近付けないでくれ」
「はい、冷酒お待たせしました」
小上がりににじり上がり、冷酒をテーブルに置く すると、妙な震動が伝わってきた
ふと胡座をかいた十三に目をやると、真っ赤な顔をしてズボンのチャックを下ろし、裕美子を目で追いながら自慰をしていた
「!」
気付かないふりをして、小上がりから離れる
秀之にも、裕美子にも気付かれぬ様にわざわざ一番離れた小上がりに陣取っていた理由が解けた
「あの、十三さんて…」
「ああ、あいつは危ないんだよ…」
秀之が呟いた
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