再び目を覚ました時、傍らに寝ていた筈の裕美子は居らず、裕美子の布団も無かった 欄間の時計は午前六時 外は明るかったが、昨夕の雨のせいだろうか 濃い霧が立ち込めていた
離れにも秀之の姿は無かった 一瞬、昨日の一連の出来事は夢だったのではないか、と自身を疑った
同時刻… あの沢の堰の上、岩影には秀之と裕美子の姿が有った
「なあ、良かったんだろう?タカのモノでイキ狂ってたよな?」
「貴方、ごめんなさいっ だからもう言わないで、許して…」
離れに消えていった秀之は、一部始終を覗き見ていた 自らがそうさせては居たが、やはり愛する妻が他の男に抱かれる場を目の当たりし、嫉妬に狂っていた
濃霧に包み込まれながら、秀之は例の布袋竹で裕美子の中心部を責め立てる
「どうだ、お気に入りの味は?やっぱり生身のチンポの方が良いのか!?」
「あっ 貴方の方が良い…です…」
「嘘を吐くなよ、昨晩あんなに狂っていた癖に」
秀之が、より一層激しく 強く裕美子を責め立てる
「本当、本当よ…あ、ああっ イク、イクっ!」
裕美子は尻を奮わせ、続けざまにイキ果てた その姿を見て、憑き物が落ちた様に放心していた秀之が裕美子を抱き寄せた
「すまない…分かっていても、責めずには居られ無かった…裕美子、愛しているよ」
「貴方…」
誰も悪くなかった 強いて言えば、元凶、あの暴漢にさえ出会わなかったら こんな歪んだ関係には成らなかったのだろうか…
これもまた夢では無かろうか、と甚平姿のまま古民家の勝手口から表に出る 食堂の脇には昨日と変わらず、自分の四駆が着けて有った
「タカちゃん、おはよう」
霧の中から裕美子が現れた 後ろには秀之の姿も見えていた やはり、というか何というか 秀之が自分を恨めしそうに睨んでいた
「ちょっと、貴方…」
「タカ、ちょっと来い 一発殴らせろ」
「はい…」
覚悟はしていた 秀之と裕美子の望みとはいえ、自分の妻を抱いた男が目の前に居たら、それは殴るだろう
「貴方、止めて タカちゃんは悪くないでしょう?」
「ヒデさん、お願いします」
目を閉じてグッと歯を食い縛り、腹に力を入れる
頭蓋骨に重く鋭い痛みが走った あまりの痛さに目を開けると、頭上に秀之の拳骨が乗り グリグリと押し付けている
「痛っ」
「そりゃ痛くしてるんだ、当たり前だろう、もう一発な」
ゴッ という鈍い音が頭に響き、再度痛みが走る
「痛たたた…ヒデさん、一発って言ったじゃ無いですかっ」
「昨晩は大人しく寝るかと思ったら、すぐ手を出しやがって」
「すみません…」
「お前さんが二発だから、俺も二発、これで合いこだ… よし、朝飯食うぞ」
秀之がニヤリと笑うと、後ろで裕美子がホッとした表情を見せていた
「ごめんなさいね、ご飯炊き忘れちゃって」
卓袱台には、トーストと目玉焼き、赤筋大根の糠漬け、ジャガイモとワカメの味噌汁が並んでいた 何とも妙な取り合わせだ
「腹に入れば一緒だ、食え」
秀之は気にも留めずに食べ始める トーストに味噌汁、か…
「?…旨い…」
意外や意外、トーストに塗られたバターと、味噌汁の風味が絶妙だ 糠漬けの塩気がまた、パンの甘さと合う
「でしょう?うちではパンにもお味噌汁なのよ」
裕美子が台所から得意気に喋りかけながら、糠床を混ぜていた
「この糠漬けも滅茶苦茶美味しいです」
「うふふ、ありがと 」
秀之がトーストを味噌汁に浸しながら、話かける
「所で、タカ、いつまで居られるんだ?」
休みは昨日を入れて一週間取って有ることを告げると、秀之は裕美子の元へ行き、なにやら話し込んでいた
「よし、タカ、今日から住み込みで店のアルバイトしないか?好きなときに帰って良いからよ」
「実は竿の修繕とか色々と仕事が滞ってるんだ
店の方を裕美子と二人で回してくれたら助かるんだよ」
嫌も応も無く、秀之は箪笥から作務衣のような仕事着を引っ張り出し、ニコニコしている
「貴方、タカちゃんの都合も有るんだから…」
台所から裕美子が現れた 裕美子と目が合う 昨夜の、橙色に染まった裕美子の肢体を思い浮かべていた
「分かりました、ヒデさんの助けになるなら、やらせて下さい」
口では最もらしいことを告げる、が、動機は思いっきり不純だった
※元投稿はこちら >>