「あら、タカちゃん先にお風呂?」
夏物のゆっくりした薄手のワンピースを着た裕美子が振り向いた ノースリーブの脇からはチラチラと下着が見え隠れしている
「着替え用意するから待っててね」
障子を開け放した奥の部屋へ向かい、南部箪笥から甚平を取り出した裕美子を先頭に、再び風呂場へ向かう
「お昼に入ったから勝手は分かるわよね?」
「はい、あの、昼間は…」
なんともバツが悪い
「ちょっとびっくりしただけだから良いのよ、それでね…」
「はい、はい分かってますっしません、もうしませんからっ」
裕美子は今までの明るい表情から一変して、もじもじしながらそっと囁いた
「それはそうなんだけど、勿体無いから我慢していてね?」
「?」
自分の耳元でそう囁くと、くるりと振り返り、裕美子は台所に戻って行った
昼に一度浴びたとはいえ、この季節は何度シャワーを浴びても気持ちが良い 汗を流し、用意された甚平に着替えて居間に向かおうとすると、玄関から秀之が声を荒げていた
「だから今夜は客が来てるから店は開けないって言ってるだろう?十三さん、あんたもう十分酔ってるみたいだし、今夜は帰ってくれ」
「ちぇっ、分かった分かった、何だよ、他所から来て裕美子をかっぱらいやがってクソ」
五十絡みの短躯の男が、悪態をつきながら乱暴に戸を閉めて出て行った
「ヒデさん、あの、自分の為にお店閉めたなんて、すみません…」
「良いんだ、夜は酔っ払いしか来ないし、どいつもこいつも裕美子の尻目当てだからな」
秀之は豪快に笑うと、台所の床下から何かを取り出した 藁の束が刺さった一升瓶だ
「タカ、お前さん、酒は飲めるか?今夜は特別だ、ドブロクって分かるか?」
「一応、飲めます…ドブロク?って何ですか?」
「まあいい、さあ、飯だ飯だ」
茶の間に戻ると、卓上には地の物であろう煮物や焼き物が並んでいた その中に、一際大きな岩魚の塩焼きを見付けた
「今朝の尺岩魚だ、食え」
夕刻から宴が始まり、二時間程過ぎただろうか すっかり秀之と意気投合し、バカ話や釣りの話で盛り上がっていた
「だからよ、釣りと裕美子、どっちが魅力なんだ?タカ?」
「そりゃ裕美子さんは可愛らしいけどヒデさんの奥さんだし、やっぱ釣りですかね」
「あ?じゃなにか、裕美子には魅力無いのか?」
秀之はいささか悪酔いしているようだ
「じゃヒデさんはどっち何です?」
「うむ、両方」
そう言い放った後、秀之は大の字で寝転がり 大いびきを立て始めた
「あら、主人、寝ちゃったの?」
いつの間にか風呂に入っていた裕美子が戻ってきた 白地に藍色や薄紫色で染められた紫陽花の柄が入った浴衣に着替えていた
「全く、無理の利かない身体なのにドブロクなんか飲むんだから」
湯上がりで桜色に染まった肌、髪をまとめ上げたうなじから垂れる後れ毛、浴衣の合わせから覗く豊かな胸元…
「はい、ヒデさんたら裕美子さんと釣りの自慢話ばかりして大変でしたよ」
「うふふ、付き合わせちゃって、ごめんなさいね」
裕美子はふんわりした笑顔を向けると、空のビールグラスを手にした
「タカちゃん、お酌してくれる?私も飲みたくなっちゃった」
ビール瓶に手をかけると、裕美子は首を振った
「そっち」
なみなみと注がれたドブロクを、一気にコップ半分程グイグイと飲む 上下に蠕動する喉元が艶かしい
「タカちゃん、タカちゃんて、奥さんとか彼女さんとか居るの?」
上目遣いで、じっとりとした視線を自分に向けている
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