先程と同じようにエレベーターに乗り、フロントを横切る 何組かのカップルが、エレベーターから三人で出てきた自分達を見て怪訝な顔をしている 外はどうやら雨のようだ 街は酔い始め、ホテルは盛況だった
「今日は有り難う御座いました」
彼と彼女に、何とも間抜けな礼を言う
「じゃ、また」
ホテルの前で、お互い逆方向に歩き出す 彼と彼女は、また新しい玩具を求めるかのように、振り返りもせずに夜の街に溶け込んでいった
中古の四駆に乗り込み、エンジンをかける 今朝までは何て言うことも無い、退屈な休日だった筈だ
ほんの少しの好奇心から口を使ってしまった魚は、魅力的な擬似餌に隠された針に気付かずに捕らえられてしまう 釣られた魚の生殺与奪の権は、釣り上げた者が持っているのだ
「ただいま」
「お帰り、今日は釣れた?」
妻が缶ビールを片手に話しかけてくる ワンコは自分に飛びかかり、ブンブン尻尾を振っていたが しきりに手指の匂いを嗅ぎだすと、プイとケージに入ってしまった 妻や自身のものでは無い、他の牝の匂いに気付いたのだろう 明らかに嫉妬していた 婚外の彼女と会ってきた時にも、必ず同じようにケージの奥から睨み付けてくる
「さすがだな、悪かったよ よし、オヤツあげよう」
「何言ってるの?あら、髪の毛濡れてるわね 雨、まだ降ってた?」
自分の髪を濡らしていたのは、彼女の迸りだった 慌てて風呂場に向かう
「何でもないよ、ワンコにオヤツあげといて」
シャワーで彼女の匂いを洗い流しながら、今日の出来事を思い浮かべた 彼女の瞳を瞼の裏に映し出す
勃起していた 今頃になって、脳が今日の光景を、痴態を、興奮を全身に流し始める
瞬く間に射精し、陰茎はまだ勃起している 連続で扱き抜くなど、何年振りのことか 婚外の彼女との時にもこんな事は無かった
風呂から出て、自分もビールを開ける チラ、とワンコを見やると、まったくもう、といった表情でブフー と溜め息を吐かれた
「今日はもう疲れたから先に寝るよ」
寝室に入り、スマホを充電器に置いた 灯りを消し、明日の仕事に差し支え無いように身体を休めねば
真夜中に、ふと目覚めた 妻も就寝し、前夜と変わらぬ寝息を立てている
まだ夜中の三時だ もう一度寝よう、と思った その時
鼻腔から微かに、彼女の尿の匂いがした
スマホの画面が ボウ と仄かに光っていた
終
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