決して斜視ではないのに、どこか視点の定まらない美しい瞳 だが彼と小さな声で会話する時は、確と彼を見つめていた
「彼女を撮ることが目的だし、君の顔は映さないから」
彼が話し続ける
「何時まで大丈夫?」
「あ、十時くらいには家に帰らないと」
「よし、それ飲んだら行こうか 彼女、コートの下はもう裸だし」
圧倒されていた
「もう好きなようにして良いからさ 中は裸だしエレベーターとかで色々しても構わないから」
彼女の瞳が自分を見ていた 今会ったばかりの自分に、何をされても良いと彼が言い放った瞬間から、自分が彼女の視界に入った
感じの悪い喫茶店員に金を払うと、彼が立ち上がった
続いて自分も席を立つ 彼女に視線を向けると、コートの襟元から乳首が丸見えだった
素足にアディダスのスニーカーを履いていた
話やネットなどでは当たり前に語られている露出女の出で立ちがそこに有った 実際に生で見たのは初めてだった
彼は何事もない様子でホテル街に向かう 自分は彼女に話しかけてみた
「あ、宜しくお願いします」
彼女は無言で軽く頭を下げた
全てが急展開で、頭が付いていかず混乱していた 自分は先程まで日常の中で退屈していた筈だった
それがどうだ 今や、自分の彼女を他人に貸し出し、それを記録しようとしている男と、たった今会った男に身体を任せ、その男に放尿したいと願う全裸にコートの変態女と共に歩いている
繁華街からホテル街に抜け、フロントに辿り着いた
「三人なんだけど」
「6900円」
フロントで機械的に料金を言うチャイナ系の中年女性 慣れているのか、三人入室にも何の表情の変化も無い
彼と彼女と、自分
エレベーターに乗り込むと、そっと彼女の手を掴んでみた 恥ずかしくて顔は見れなかった
彼女は自分の手指を払うこともなく、指を絡める自分に、ただただ委ねていた
306 部屋番号のプレートが下がったキーをノブに差し込む
日常から非日常への扉が開き、三人を飲み込み 静かに閉じた
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