「CTも見たけど、頭ん中はふたりともきれいだよ。お母さんはお尻の打撲と、左手首を軽く捻っただけ。娘さんは右足首の捻挫くらいかな」
「そんなはずないです!もう1回ちゃんと診てください!!絶対頭おかしくなってるんです!!」
「ちょっ…ママ、落ち着きなよ」
「だって、こんなのおかしいでしょ!」
「そうは言われても、さっき別の病院でも診てもらって、何もないって言われたんでしょ?
とにかく、これ以上の処置は必要ないですからご安心を!」
看護師に促され、私たちは診察室から半ば強制的に追い出される。
「ちょっと、真面目に診なさいよ!!」
「もう、ママっ!」
「…思春期の…心の何かですかね」
「さぁ、分からん。しっかし、何であのお母さん、娘のことをずっと「ママ」って呼んでんだ?」
「…真々ちゃん、みたいな名前なんじゃないですか?」
「はぁ?ややこしい名前付けんなよなぁ~」
********
「紫乃さん!真緒!どうだった?」
「さっきと一緒。何も問題ないって」
「そっか~よかったぁぁ~」
「良くないわよ!今!まさに!ここで!おかしなことになってんでしょうがぁぁ!!」
真緒の身体になった私は、悠人の服を掴んでガクガクと揺さぶる。
「ちょっとママぁ~ここ病院なんだから」
「……さっきからさ、ふたりとも何の遊びしてんの?まるで入れ替わったみたいな喋り方してさぁ」
「だから!そうだって何回も言ってんでしょうがぁ!このポンコツ!!」
「ひぃ!真緒が紫乃さんみたいなこと言う~!なになに?反抗期??」
「…もう~やだよぉ~何これぇ…グスッ」
私の姿をした真緒が、とうとうグズり出してしまう。
「あっ、ちょっと真緒~アラフォーがこんなとこで泣くのはみっともないからやめてぇ~」
「だってぇ~どうしようコレ~うぅ…」
「ごめんごめん、ママも気が動転しちゃって。大丈夫だから、ね?落ち着いてふたりで、今後のこと考えましょ?」
「ひっく、ひっく、う…うん~」
泣きじゃくる自分を抱き締めるという、何とも奇妙な図ではあるが、むにゅむにゅとあたる爆乳がリアルで、これは夢ではないと実感させる。
「…おいポンコツ、さっさと車とってきなさいよ。こっちはふたりとも怪我人なんだからね」
「はっはい!…ってまじで真緒どうした?紫乃さんの物真似?笑」
「・・・・・」
「っ!!今すぐ車とって参ります!!」
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「…で、さっきの衝撃で、紫乃さんと真緒の中身が入れ替わったって?」
うんうんっとふたりで力強く頷く。
「……ぶっ、アッハハハ!ふたりとも何をバカなことを(笑)漫画じゃないんだか…あいたっ!」
「笑い事じゃないわよ!」
「悠人くんのバカ!」
「えぇ~ちょ、ふたりして…俺のことからかってんでしょ?」
「…仕方ないわね」
ちょいちょいっと悠人を呼び、耳打ちする。
「な、なんだよ真緒…」
「あんたと私「紫乃」しか知らないこと、教えてあげるわよ」
「え?………えっ!?ちょ、何でそれを…紫乃さんしか知らないはず…えっ!!?えぇ???」
慌てふためく悠人に、今度は真緒が耳打ちする。
「うぇっ!?それ、絶対内緒にしてくれるって真緒と約束したのに…何で紫乃さんが知ってるわけぇ!?」
「…あんた、ほんとに色々やらかしてるのね」
「まだママに内緒にしてることたくさんあるけど、聞く?」
「~~~!!わ、分かった!信じらんないけど、と、とりあえずふたりが言ってることは信じるようにします!!」
悠人は混乱しながらも、目の前の出来事を何とか納得しようとしている。
「それにしても…真緒、これ…」
胸元をぎゅっと押さえる紫乃。
「え、何…」
「真緒、じゃないや、紫乃さん?そこも痛むの?」
「いや…真緒、これは高1にしてはちょっと…」
ペタペタと胸を触り呆れ顔になる。
「なっ、なっ、何よぉ!ママだって、お腹とかお尻とかプヨッてるじゃん!」
「はぁ!?ママはムッチリ体型なのよ!痩せてりゃ良いってもんじゃないのよ!!」
「自慢のおっぱいだって垂れてるじゃん!!」
ギャーギャーと言い合うふたりを交互に見る悠人。
(お互いに自分の身体をディスっている…シュールだ)
「と、とにかく、明日までに戻らなかったら…悠人、あんたがフォローしなさいよ。店閉めるけにはいかないんだから」
「えぇ~無理だよ。真緒、裏方しかしたことないじゃん」
「…悠人」
「全身全霊でフォローさせていただきます」
「ママこそ、明日戻れなかったら代わりに学校行ってよね」
むくれた表情のまま、真緒が呟く。
「えっ、学校なんて数日休めば良いじゃない」
「ダメだよ!明日小テストもあるし、課題も出さないと内申に響くじゃん!」
「えぇ~テストなんて無理だよ~」
ピロンッ♪
真緒のスマホが鳴る。
「んげっ」
「どうした、真緒」
「ママ…テストもだけど、こいつの絡みも面倒かも…」
スマホはLINE画面を開いており、そこには一言。
『今日何で来なかったんだよ』
「日野翔太。クラスの奴なんだけど、口悪いし面倒な奴でさぁ」
「あ~試合見に来いって言ってきた…なになに、こいつ真緒のこと好きなわけ??」
「ち、違うし!」
「いやいやいや、これは100パー真緒のこと好きでしょ」
「違う違う、レギュラー入りしたのを自慢したいだけだって!」
「いやいやいや…」
「それはそれは…」
「ねー☆」っと紫乃と悠人がニヤニヤしている。
「やだぁ~急に高校行くの楽しみになってきた♪翔太くんかぁ、どんな子かなぁ~。あ、ママのテクがあればこの子1日で落とせちゃうけどどうする?」
「や、やだ!ほんと変なことしないで!!」
「うふふ~あ、ちょっと制服あわせてこよっと」
ウキウキと階段をかけ上る紫乃。
「ま、ママ!…やっぱ学校、しばらく休もうかな」
「真緒、学生の本分は勉強でしょ。サボるなんてとんでもないわ。大丈夫、ママがバッチリ代わりになるから♪」
バタンッと部屋の扉が閉められる。
ガクッと項垂れる真緒。
「諦めろ。紫乃さんはな、恋バナが大好物だぞ」
「うぅ…私の学生生活…終わった」
つづく
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