「絵美ちゃん、居るかい?晩御飯持って来たよ?」
勝手口から、千代子の声がする
「あのババア、苦手なんだ…小僧、この金は一旦俺が持ち帰る…裕美子が落ち着かないと話にならないからな…」
「分かりました…」
十三が玄関から出て行き、入れ替わりに千代子が現れた 自分を無視して、仏壇に線香を上げ しばらく手を合わせていた
「タカ君…今まで 何してた?」
手を合わせたまま、振り向きもせずに問い詰めてくる
「裕美ちゃんや絵美ちゃんが大変な時に、お葬式にも来ないで、罰当たりが」
「すみません、実は 今朝知ったばかりで…」
自分が秀之の甥っ子だと思い込んでいる千代子が、怪訝な顔を見せた
「あんなに仲良かったのに、連絡来なかったのかい?裕美ちゃん、余程気が動転してたんだねぇ…可哀想に…」
「おばさん、いつも有り難う…」
絵美子が千代子に礼を言うと、千代子が絵美子の手を握りながら涙ぐんでいた
「絵美ちゃん、しっかり、ね…何か合ったらすぐおばさんに電話するんだよ?」
「ママ呼んでくるから タカ、先に食べててね」
とても食欲など出なかったが、後で千代子さんに何を言われるか分からない…とりあえず、煮物に箸を伸ばした
(旨いな…)
見たことの無いキノコが山ほど入った煮物は、存外に美味かった
「タカちゃん…来てくれたの…有り難う」
昼間に会った事を覚えて居ないのか、裕美子が憔悴した顔付きで現れた きっと、これが正気の状態なのだろう… 先程の明るくふんわりとした裕美子が狂っていて、今の脱け殻のような裕美子が、正気…
果たしてどちらが裕美子にとって幸せなのか…
「おばさんが、また晩御飯作ってくれたのよ?」
絵美子が勧めるが、裕美子は箸も持たずにぼんやりとしていた…
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