「実は、再来月 彼女と結婚するんだ…もう式の日取りも決まってる だから…」
「だから、何?」
絵美子の真っ直ぐな目が、針金で締め付けられた心臓を、更に抉る
「こんな、汚れた身体のアタシなんてタカには似合わないし、タカが選んだ人ならアタシもお祝いするよ?タカ、おめでとう…」
「絵美子ちゃん、絵美子ちゃんは 汚れてなんか無…」
「やめてよ! アタシは、もうタカには似合わないの!初めてがあんな、あんな…」
絵美子の様子がおかしい ガクガクと震え、視点が定まらない… 上半身が揺らぎ、すうっと後ろに倒れ込むところを、慌てて支える
「絵美子ちゃん…もう一度言うよ 絵美子ちゃんは汚れてなんか無い」
……絵美を助けて……
……たとえ一夜限りでも、幸せにしてやるのが……
……女の覚悟は、命懸けなのよ……
……タカの意気地無し……
……で、腹は決まったのか?……
(師匠、裕美子さん…すまない…)
震える絵美子の唇を、塞いだ 長い、とても長い口づけだった
「タカ…」
「今日が 本当の絵美子の初めて だよ…」
「だってアタシ、汚…」
言葉を遮る様に再び、絵美子に唇を重ねた いつの間にか、震えは止まっていた
絵美子を抱え上げ、華奢で小さな身体を再び確かめる…まだ幼さの残る身体を軽々とお姫様抱っこしてやると、絵美子は胸元に顔を押し付けながら呟いた
「今だけ、今だけタカのものにして…」
(あ、理香…理香にも、すまない…)
心の中で理香にも謝りながら、奥の間へ続く襖を引いた
「…!」
そこには既に布団が一組だけ敷いて有り 枕元にはタオルや避妊具が整然と置かれていた… 秀之と裕美子の、覚悟の表れだった
ふと、脇の南部箪笥を見ると 秀之と裕美子の結婚記念写真が有った 十余年前、裕美子が伏せていた あの写真だ… あの時の裕美子の気持ちが、今になって理解出来た
写真立てを、そっと伏せる
絵美子を そっと布団に降ろし 襖をピタリと
閉めた 部屋の灯りは蛍光灯からシーリングライトに代わっていたが、灯りを落とすと部屋はあの時と同じ、仄暗い橙色に染まった
「昼間なのに、夜みたい…」
絵美子がはにかんだ
「絵美子…」
頭に心臓が付いているのかと思う程に、耳の奥から鼓動が聞こえる…
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