婚約者との新生活に備え、自分はボロアパートを引き払い 2LDKの賃貸マンションに引っ越していた 携帯電話がガラステーブルの上で小刻みに震え、着信音が急き立てる
「オレだ、絵美子な、明日退院出来るらしい…タカには色々迷惑かけたな」
着信の相手は秀之だった あれから一週間…あの時の事は、脳裏に まだ生々しく鮮明に焼き付いている…
マキを送り、急いで山道を駆け上がると、食堂の前でへたり込む裕美子が見えた
「裕美子さん、大丈夫ですか?」
「タカちゃん…」
「取り敢えず、十三さんの後を追いましょう」
裕美子を助手席に乗せ、展望場に着いた時には、全てが終わっていた…
「まずいな…」
十三が呟く 絵美子を十三の車の後部座席に横たわらせ、病院に向かわせる直前だった
「裕美子か、絵美子を見つけた…病院に向かうから乗れ」
後部座席に横たわる絵美子の姿を見て、半狂乱で絵美子の名を叫びながら乗り込み、山道を下って行った
展望場には白いワンボックスカーと十三、そして自分だけが残った
「小僧、来い…手伝え」
初めての出会いから十余年経つが、いまだに小僧呼ばわりだ
十三に促され、展望場の外れにポツンと建てられたトイレに向かうと、中で勇が倒れていた…
「!…オェっ、…」
「こいつを運ぶ…手伝え」
「十三さん…」
「昔、裕美子を襲ったのも、絵美子を拐ったのも こいつだよ…こいつは裕美子の大事な娘を傷付けた、だから殺した」
十三は暗い目を勇に投げ掛け、無造作に両足首を掴んだ
「小僧、早くしろ」
十三の裕美子への、歪んだ愛情だった 裕美子の為に、ここまでする十三に恐怖を覚えた…
「よし、小僧 今の事は忘れて病院へ行ってやれ…お前の娘、だろう?」
「!…なんでそれを…」
「何でもいい くれぐれも念を押すが、誰かに喋ったら…分かるな?」
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