「じゃあ、明日は五時くらいに出るか…戸締まり宜しくな」
「はい、じゃまた明日」
自分は食堂の六畳程の小上がりで寝泊まりしていた 障子を閉めてしまえばエアコンも効き、なかなか快適だ 寝る前に三菱の四駆からタックルボックスを持ち出し、明日のルアーセレクトをしていた
食堂の裏手から物音が聞こえてきた ガチヤガチヤと裏口の戸を開けようとする音がする
(?…まさか、泥棒?)
小上がりからそっと降り立ち、包丁を手にした 裏口から死角になるカウンターに身を隠した
裏口の戸が、静かに開く
「誰だっ!」
「ひっ…」
パジャマ姿の、絵美子だった 包丁を持つ手を見てガクガクと震えている
「なんだ、絵美子ちゃんか、脅かすなよ…どうした?」
「あー、ビックリした、殺されるかと思った」
「こんな夜中に、何の用?」
「あのね、タカ…やっぱりお腹空いて寝れない」
「タカのご飯、美味しいっ」
残り物の焼鳥を串から外し、丼に乗せて茶を回し掛けた 焼鳥茶漬けを絵美子がモリモリと食べている
「それ、師匠が教えてくれたんだ、旨いだろ?」
絵美子は返事もせずに丼を抱え、最後の飯粒ひとつまで綺麗に平らげた
「ご馳走さま、あー、美味しかった」
「食べたら戻ってすぐ寝るんだぞ、明日は師匠と朝マヅメ狙いなんだから」
食べ終えた食器をシンクに置いた絵美子は、なかなか帰ろうとしなかった
「ねえ、タカ…アタシとママ、どっちが好き?」
絵美子は、女の顔をしていた…
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