「アタシご飯要らない、宿題有るから先にお風呂入って来る」
絵美子がプイとそっぽを向きながら浴室へ消えて行った ただの思春期、反抗期がそうさせているなら良いが、そこには女の嫉妬が見え隠れしている
「ちょっと絵美子っ…もう、最近絵美子が言うこと聞かなくて…」
「まあ、今の内だけだろう」
秀之が筍ご飯に筍の味噌汁をぶっかけ、ズルズルシャクシャクと平らげている
「そろそろ食堂開けるか」
「はい」
自分が滞在している間は、自分も食堂の手伝いをしている その分、秀之と裕美子、どちらかが休めるので割りと重宝されていた 今夜は裕美子が休める番だった
「タカ、暖簾出しといてくれ」
時刻は夜七時前、平日はあまり客も来ないが、麓で勤めた帰りに晩飯や一杯引っかけて帰る常連の為に、日曜日以外は基本的に休まず食堂を続けていた
「タカ、明日の朝、ちょっと沢に出るぞ」
食堂を閉め、明日の仕込みを終えた秀之が、竿を振る仕草をしながらうどん打ちの小部屋から出てきた
「水量も少ないし、難しいですよ」
今日の感触を秀之に告げたが、秀之はニヤリと笑いながら首を振る
「腕の差を見せてやるよ」
「ちょっと絵美子、本当にご飯食べないの?」
食堂で明日の釣行の話をしている頃、元はガラクタ置き場だった絵美子の部屋の前で、裕美子が問い詰めていた
「要らない、あっち行って」
(タカはアタシのものなんだから…ママなんか嫌い…)
絵美子の心の奥底に、仄暗い感情が芽生え始めていた…
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