食堂の駐車場から、軽トラが停車する音が聞こえてくる 何も無かった様に開店準備をしている裕美子だが、仕事着の色味が朝とは変わっていた だが、秀之はそれに気付かず厨房へと入って行った
「戻りしなに十三さんとすれ違ってな、根曲がりの筍貰ったよ」
新聞紙に包まれた細長い筍を見せると、裕美子が嬉しそうに微笑んでいる
「どうしましょ、夜にでも焼いてみる?」
「何でも良いさ…タカは何が良いんだ?」
「酢味噌和えなんかどうです?」
他愛ない会話を続けているが、今 秀之が立っている場所で数十分前には変態行為が行われていた
裕美子が、意味有り気な表情でチラと自分を横目で見ていた
「十三さん、この辺りに池を二つばかりつくりたいんだ」
村営養鱒場の管理人が、ヘルメットを被った十三に話しかけていた 併設の釣り堀だけではなく、当時ブームになりかけていた管理釣り場、所謂エリアフィッシング場を増設する計画を十三に相談している
「結構デカい池にするんだな」
十三は養鱒場の敷地図面を広げて、三角スケールを当てている 測量業で生計を立てている十三には、こんな仕事も引き受けていた
「とりあえず地元の建設業者に話は持っていくよ」
昔から懇意にしている土木屋の事務所に向かう途中、山道を上がってくる秀之を見た パッシングで秀之を足止めする
「よう、ヒデ…今朝がた掘った根曲がりだ、持っていくか?」
「いつも悪いな、十三さん」
「あの小僧も来てるんだろ?車、見たぞ」
裕美子を見守り続けていた十三も、最近ではあまり食堂にも現れなくなっていた 健やかに成長している絵美子と、秀之、裕美子の家族三人で暮らしている邪魔をしたくないのだろう
「じゃあ、な…フン」
バックミラーの中で遠ざかる軽トラを見ながら、十三は満足気に鼻息を吐いていた
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