「じゃ、十三さんが居なきゃ、今頃裕美子さんは…」
「うん、また誰かに襲われてたかも知れないな…」
秀之は今朝方、十三の元を尋ね、秀之が裕美子と夫婦になる以前から、裕美子を見守り続けていたことなどを話していた
「でも、重さん達は若い頃の十三さんは非道かったって…」
「それも本当だろう、人は良いこともすれば、悪いこともするんだよ…白黒はっきりとなんか付けられんさ」
秀之は長財布程の大きさの包みから、広げたガムの包装紙サイズの紙切れを一枚抜き取り、バラのタバコ葉を器用に丸めていた 細長い円錐形の手巻きタバコに火を着けると、ゆっくりと煙を吐いた
「それより、タカ、千代子さんと昼間は何していたんだよ?」
秀之は少し意地悪く問い掛ける
「いや、気付いたら、そういうことになってまして…」
「街外れのラブホテルか?…俺も気付いたら、そういうことになってて、な」
秀之はニヤニヤしながら煙を吐いている
「タカ、お前、この辺りの男衆何十人と兄弟になったと思う?」
千代子は昔から誘われたら断れない女だった
だが、ロクな歓楽街もないこの辺りでは、女に縁の無い血の気の多い男衆や、筆下ろしの相手が見つからない若者を一人前にしてくれる、そんな存在でも有った
「千代子さんて、聖母みたいですね…」
「聖母か…タカ、お前良いこと言うなあ…その通りだな…でも裕美子には内緒にしてろよ?」
「勿論です」
秀之はタバコを揉み消し、少し真面目な顔付きで問い掛けた
「肝心の頼みは、今夜も大丈夫か?」
「勿論ですっ」
秀之は安堵の表情を見せ、作業場から自分を放り出した
「頼む、な…」
二本目のタバコを巻きながら、作業場の裸電球の下、独り呟いていた
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