「ところで・・」
サクラの夫の好物は何かと問う少女。
あまり好き嫌いの無い夫。
基本的には何であっても、文句を言われた記憶は無い。
「敢えて言えば、ヤキソバかな。」
ほほう。
塩?ソース?あんかけ?
「ソースかな。屋台みたいな。」
勝ち誇ったような表情を浮かべながら立ち上がるナナ。
秘伝のレシピを伝授すると言う。
「え?今から?」
「はい。」
小腹が空いたというナナ。
確かに。
時計を見れば、既に十二時を過ぎている。
ワンパックあたり三人前の生麺のうち一人前を使って半人前ずつ。
「コツは、ですね・・」
水分を飛ばしつつも、加熱し過ぎないことだそうだ。
ヤカンに湯を沸かしながら、ビニール袋に入った生麺を電子レンジで加熱、この際に袋を多少、破っておかないと破裂してしまう。
また、この時に袋の中に日本酒を少々。
カンスイの匂いを飛ばす為だ。
次に野菜を切る。
切った野菜をザルにあけ、沸騰したヤカンの湯を掛け回す。
これにより野菜の水分が飛び、加熱する時間が減り、火が通りながらも、歯応えが良くなる。
そして肉。
「このひと手間が重要なんです。」
事前に軽く塩と胡椒で下味を付ける。
火を通し過ぎた肉は固くなる。
だが、肉に比べれば、野菜は火を通すのに時間を要する。
「だから別々に火を通します。」
まず肉を炒め、火が通ったら別の皿に一時退避。
肉の脂と旨味が残ったフライパンにゴマ油を少々。
野菜を軽く炒めながら、野菜に肉の旨味を染み込ませる。
最後にフライパンに肉と麺を投入し、粉末ソースで味付けしながら中火から強火で炒めれば完成だ。
「完成でーす。」
小さな皿に半人前ずつ盛り付けられたソースヤキソバが湯気を立てている。
・・どれどれ・・
「!」
味見のつもりの一口、だがサクラはアッという間に完食してしまう。
「・・美味しかった。」
「夜中の炭水化物はヤバいらしいですよ?」
「・・知ってる。」
「後は早食いも・・。」
食べながら笑う少女が憎らしい。
だが、食べてしまったものは仕方がない。
「・・だけど、ひと手間、ふた手間だけで全然違うんだね・・。」
「ふぁいふぁいふぁんへんほ、はんはんふふへほひへは、れふよ・・。」
・・汚ないな。
・・飲み込んでから喋りなさい・・。
「ふぁい。」
黙々と咀嚼して飲み込む少女。
弟が二人と言っていた。
自然と荒っぽくなるのだろうか。
ゴクリ
「ごちそうさま。」
「で?」
「?」
・・『ふぁいふぁいふぁんへん』って?
「あー。あれ。」
『ふぁいふぁいふぁんへん』ではなく『菜々飯店』だと力説する少女。
では『はんはんふふへほひへは、れふよ』は何ぞや?
「『看板娘としては、ですよ』って言ったんですよ。」
・・全然、分からなかった。
或いは彼氏の察しが悪いのではなく、少女の伝え方の方に問題があるのかもしれない。
いずれにせよ、繋げれば『菜々飯店の看板娘』となるのだろうか。
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