「何が食べたい?っていうか、苦手な食べ物ってあったら教えてくれる?」
「好き嫌いは無いですね・・。」
暫し考えた末、ナナは答える。
「あ。でも、トロロ芋がアゴに着くと痒くなりますね。」
それは・・誰もが同じです・・。
「・・アレルギーじゃないんだ・・。」
真顔で呟く少女。
痒くはなるが好物なので食べてしまう、食べれば痒くなるという、不毛なスパイラルが十五年以上に渡り続いているらしい。
話しながら着替えを終えた二人は、ロッカールームから受付に向かい、退館の手続きと会計を済ませる。
館内着の一件は口頭による注意のみ。
胸を撫で下ろしながら施設から出た二人は、意外に気温が低いことに驚く。
日暮れには間があるが、既に陽は傾き始めている。
「お鍋にしようか?」
「お。何鍋ですか?」
「スーパー次第かな。」
ようやく元気を取り戻した少女は、口数が増え、表情も明るい。
徐々に陽が落ちる中、二人はサクラの行きつけのスーパーに辿り着いた。
「フレッシュセール開催中?」
四月最初の土曜日とあって、新入学、新入社に託けた生鮮食品のセール中らしい。
店内を見渡す限り、精肉コーナーが充実しているようだ。
しかも安い。
店内をキョロキョロと見回すナナを振り返ってサクラは声を掛ける。
「スキヤキは?」
「え?本当ですか?」
目を輝かせる少女。
少女は滔々と語る。
食べ盛り、育ち盛りの弟が二人。
食卓における生存競争は厳しい。
そこには姉の権威など通用しない。
「凄いスピードで肉から無くなるんですよ。」
別に肉が大好物というわけではないが、スキヤキを、いや、他の何であれ落ち着いて食事を取るのが夢だった。
「お腹は膨れるんですよ・・。」
糸コンニャク、長ネギ、焼き豆腐、それはそれで美味しい。
白い御飯も美味しい。
だが、常に心が満たされないのだ。
粗末でも良かったのだ、心さえ満たされれば。
『これがナナの分。だからナナが好きなだけ食べなさい。』
そう言って欲しいのだ。
「良し。じゃ決定だね。」
「やったぁ。あ、でも・・」
懐具合を気にする少女。
「何、言ってんの。」
ナナがスマホを拾ってくれたお陰で本体を買い換える経費が生じない。
それに比べれば安いものだ。
どうしても気になるのであれば、洗い物を手伝ってくれれば、それで良い。
「洗います、洗います。馬車馬のように洗っちゃいます。」
馬が皿洗いをするとは思えない。
いずれにせよ、二人は大量の買い物を手にサクラの家に向かった。
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