「でっかいカキ氷!」
感嘆の声を漏らすナナ。
確かにカキ氷だ。
パーテーションで囲まれた五メートル四方の正方形に近い部屋。
その中央には高さ五十センチ、直径一メートルにも及ぶ皿状の器に盛られた『カキ氷』、、ただしシロップはかかっていない、、が鎮座ましましており、そこには天井に据え付けられた製氷機から粉雪のような細かい氷の粒が降っていた。
「食べちゃダメだよ?」
「え?ダメ?」
「お腹、痛くなると思うよ。」
「残念・・。」
他愛も無い会話をしつつ、タオルで額の汗を拭う二人。
冷房の風が心地よい。
「全然、大丈夫・・。」
「ん?何が?」
少女の懸念事項、それは下着を着けずに館内着を身に付けているリスクに他ならない。
自身の躯のラインが館内着越しに透けることを気にしていたのだが、それは杞憂であったことに安堵する少女。
「でも、サクラさんはヤバい。」
「ん?」
確かにサクラの館内着、、特に胸のあたりはかなりハッキリと躯のラインが浮き上がっている。
だが、悲しいかな、乳房の張りは全盛時の勢いを失って久しい。
「昔はこんなもんじゃなかったんだよねぇ。」
そう言いながら、館内着ごと左右の乳房を左右の手で持ち上げるサクラ。
「こんな感じだった。しかも・・」
二十代前半までは乳房の張り具合という意味では、ノーブラでも大丈夫だったというサクラを羨望の眼差しで見つめるナナ。
「・・逆の意味で大丈夫なんですよ・・」
薄着、、即ちTシャツ、もしくは体操服一枚の時でも基本的にノーブラだというナナ。
薄着の時であっても、普段は胸の部分だけが厚手の生地、ないしは二重になっているインナーだけで事足りてしまうのだと言う。
う。・・気にしてる・・。
話題を変えようとするサクラ、その配慮が結果的にはナナを追い詰めてしまうのだが、それは暫く後の話だ。
「まぁここにいる大部分の人が、館内着しか着てないワケだしさ。誰も気にしない気にしない。」
やや、眼を泳がせながら頷く少女は、再びバスタオルを抱き抱える。
後から思えば、この時点で少女に起こった異変に気付いてあげられなかったコトが悔やまれるサクラだが、まさに後悔先に立たず。
「さ、次は上級者コースだよ。」
立ち上がったサクラは、少女を誘いつつ『鳳凰の間』と称する摂氏四十五度の部屋に向かう。
ちなみに先程の『孔雀の間』は、摂氏四十度程度、僅か五度の違いだが、この差は大きい。
「暑っつー!」
思わず叫ぶナナ。
確かに暑い。
先程と同様、壁際の位置を確保した二人は、壁際にナナ、その隣にサクラ、と並んで横たわる。
「十分、十五分くらいかな。」
目標値を設定するサクラは、既に顔の赤いナナに付け足す。
「無理しなくていいからね。」
だが、コクリと頷いた少女の躯は、既に変調を来たしていた。
サクラがナナの異変に気付いたのは、五分が経過した頃のことであった。
寝返りを繰り返す少女の呼吸が早い。
「ナナちゃん、大丈夫?」
「だ、だいじょ・・ぶ・・。」
だが、明らかに大丈夫ではなかった。
※元投稿はこちら >>