「舞い上がっちゃいましたねー。」
・・うんうん。
だよね・・。
「あの瞬間、あの映画館の中で一番、あたしが幸せだったっていう確信があります。」
お、おぉ。
そこ・・は微妙・・
・・小せぇな・・。
家まで送ってくれるという少年は、無言でチラチラと横を歩く少女の顔を見る。
少女が視線に気付くと、少年は慌てて視線を逸らす。
今度は逆だ。
少女は黙って歩きながら、チラチラと横を歩いている少年の顔を見る。
少年が視線に気付くと、少女は慌てて視線を逸らす。
何度か繰り返した後、急に可笑しくなった二人はくつくつと笑う。
笑いながら並んで歩く二人、日暮れ時、周囲に人影は無い。
いつの間にか二人は手を繋いで歩いていた。
「少女マンガみたいだぁ。」
「へへへ・・。リアル少女マンガ。」
羞らいながら微笑むナナ。
ナナの話は続く。
「家の少し手前で・・」
別に悪いことをしているわけではないが、少女の家族とバッタリ遭ったりしたら、気恥ずかしい想いをするのは間違いない。
ここでいいよ、ありがと・・。
・・うん。
言葉少なに別れを惜しむ二人。
少女はその日、二度めに勇気を振り絞る。
「・・ね、ギュッてして。」
「ネギュッテシテ?」
明らかにアクセントがおかしい。
意図が伝わっていないことは明白だ。
・・・仕方がない・・。
その日、最大の勇気を振り絞って、少女は少年との距離、、二歩分を詰める。
もはや少女の勇気は売り切れ御免。
二人の間の距離はゼロ。
身長差は頭半分ほど少年の方が高い。
・・手が震える・・。
女は度胸、とばかりに少女は少年にしがみついた。
硬直した少年に少女は、再び囁く。
「・・ギュッてして。」
さすがに今度こそは、少年にも意図は伝わったようだ。
おずおずと少年は少女を抱えるように手を回す。
「・・・『腫れ物に触るように』って言うじゃないですか・・。」
『腫れ物』・・は、違うな。
『壊れ物』・・とか。
「そう、そんな感じ。」
・・うむ。
日本語の衰退ってやつだな。
・・まぁいいけど。
いずれにせよ、優しく、されど力強く抱きしめられた少女は、幸福感に満たされていた。
まさに『ギュッと』されている。
少年が少女を愛しみ、大切に想っていることが伝わってくる。
少し離れたところで自動車のドアが開く音が聞こえた。
どちらともなく、半歩ずつ後ろに退がった二人は向かい合う。
別れを告げれば良いのだろうか。
何か話せば良いのだろうか。
互いにどうしたら良いのかが分からない。
先に口を開いたのはナナだったという。
「・・・どうだった?」
「どうって・・。」
答え難い質問である。
男子中学生には、いささか荷が重い。
「サイサイ、意外と固い。」
照れ隠しもあったのだろうが、返答に窮した少年は、実も蓋もない感想を口走ってしまう。
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