「おぉ。凄っげぇ。」
本日、二度目の歓声を上げるナナ。
「さ、まずは身体を洗おっか。」
「あ、書いてありましたね。」
岩盤浴、スパの類いはおろか、銭湯に行ったこともない少女にとっては、眼に入る物の全てが珍しくて仕方がない。
「背中、流しっこしましょうよ。」
大浴場を訪れた以上、ナナにとっては必須のイベントらしい。
互いの背中を順番に洗い終え、一旦は並んで湯に浸かる二人。
「いいなぁ。サクラさん、柔らかくって。」
湯に浸かったまま、呟くナナ。
サクラにしてみれば、無駄な肉の一グラムとて無い少女の背中が、羨ましいを通り越して妬ましい。
だが、『柔らかくて』とは何ぞや。
「・・・・『ギュッてして』って言ったんですよ。」
交際を始めて半年後、ある春先の休日に二人は映画館に行く。
当然の如く、並んで座る二人。
ふと少女は隣に座っている少年に視線を向けた。
スクリーンを見つめる少年の横顔から、何とはなしに視線を移していく少女。
首筋、肩、腕。
その先にある手は、座席の肘掛の上に置かれている。
少女の鼓動が高まる。
手に汗をかいていないだろうか。
こういうことに積極的な女の子をどう思うだろうか。
膝の上に置いた手を、僅かに浮かせては、また下ろすを繰り返す少女。
意を決した少女は、震える手を肘掛の上に置かれた少年の手に重ねた。
弾かれたように振り向いた少年は、少女の顔を見つめる。
ゆっくりとスクリーンに顔を向けながら、少年は少女の手を優しく握る。
おいおいおい・・。
昨日、読んだ官能小説よりも・・
遥かにドキドキするじゃねーか。
「それから?それで?」
これじゃオバさん丸出しだ・・。
だが、しかし、もはやサクラは止まらない。
「それでって・・それだけですよ・・」
もはや映画などどうでもいい。
フライドポテト事件以来だ。
しかも、偶然ではない。
勇気を振り絞った少女に応えてくれた少年。
涙が出そうだ。
「映画、ずっと終わらなきゃいいのにって思ってました。」
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