他愛も無い会話をしつつ、施設に向かって十分ほどの道程を歩くサクラとナナ。
間接的とはいえ、真横に人の体温を感じる喜びを満喫するサクラ。
・・忘れてたな・・。
ううん、気付いていなかったのかも・・。
自分以外の体温を感じる喜び。
自分の体温を誰かに伝える喜び。
「何か・・嬉しい・・。」
ポツリと呟くナナ。
「何が?」
問い掛けには応えず、サクラの左側を歩いていたナナは、腕を絡めてしがみつく。
「こういうの・・いいですよね。」
はにかみながら呟く少女。
「ウチ、弟が二人じゃないですか・・」
母親の左右の手は常に弟達に占有されており、外出の際、ナナの手を引いてくれるのは専ら父親であったらしい。
勿論、父親と並んで歩くのも嬉しい。
だが、何かが微妙に物足りなかったのだと少女は呟いた。
「サクラさん、柔らかくて温かい。」
肉の薄い少女の躯、未だ熟さぬ硬い果実から、心地良い体温が伝わってくる。
無言のまま、サクラは少女の指に自分の指を絡めてしまう。
驚いたような表情を浮かべつつ、少女は絡めた指に力を込めてきた。
「カレシくんとはこうやって歩かないの?」
「恥ずかしがるんですよー。」
それでも二人っきり、周囲に誰もいなければ、おずおずと手を繋いでくれるが、視野に人影が映った瞬間、手を離すとのこと。
「誰も気にしてないっつーの。」
憤懣やるかたなし、といった風情のナナ。
サクラからしてみれば、幼いカップルのどちらも可愛らしかった。
忘れていた記憶、かつてはナナと同じように感じていたことを想い出す。
「男の子は恥ずかしがるからね。」
男にとって羞恥の感情は、基本的にマイナスの要素であり、歓迎されない。
勿論、女にとっても歓迎されない羞恥の感情はあるが、色恋沙汰においては、往々にして悪くない要素でも有り得る。
「・・・。」
サクラの説明をどう受け止めたのか、ナナは黙って何かに思いを巡らせている。
「さ、着いた。ここだよ。」
「おぉ。凄っげぇ。」
施設が予想以上に大きかったのであろうか、口を半開きにしてナナは巨大な施設を見上げる。
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