「時間、停まっちゃいました・・。」
息苦しい程の沈黙の中、微動だにせず見つめ合う二人の中学生。
五秒、十秒、或いは一分だったかもしれないし、十分だったかもしれない。
不意に無言のまま、少年は残り僅かなフライドポテトを手に取ると、顔をやや上向きにして一気に大きく開いた口に流し込む。
ア然とする少女を尻目に少年はトレーの上のゴミを片付け始めた。
・・行こう。
ぼそりと呟く少年。
頷いて立ち上がった少女は少年と並んで自動ドアから店の外に出た。
「・・びっくりしました・・よぉ。」
言葉を途切らせたナナは、膨れっ面をしてサクラを見つめる。
かなりの時間に渡り、ソファの上のサクラは身を捩じって笑い続けていたからだ。
苦しい。
お腹が痛い。
息が出来ない。
誰か・・助けてぇ・・。
「もお。サクラさん、笑い過ぎ!」
「・・ご、ごめん・・。」
しかし、そこからサクラが落ち着くまで更に数分を要した。
「いやいや、ゴメンごめんゴメン。」
「・・いいけど。」
仏頂面のナナ。
腹筋が痛いサクラ。
「でもね・・・カレシくんの気持ちも・・分かるな。」
「えー?」
「嬉しかったんだよ、絶対・・。」
「・・・。」
「だってさ・・」
大好きな彼女の手に・・
思わず触れちゃったんだよ?
しかも、だよ・・?
彼女、嫌がってないし・・
真っ赤になって・・
でも、真っ直ぐ見つめてるし・・。
「どうしていいか、分かんなくなるって。」
「だから・・?」
だからポテト、一気喰い・・?
むむ、それは・・。
「男ってさ・・・」
アイツら馬鹿じゃん。
胃袋と・・その・・アレ・・だ・・。
アレ・・つまり・・
「・・おチンチン・・ですか・・。」
視線を逸らせ、はにかみながらもナナは男性器の幼稚な俗称を口にする。
言ってしまった、そんな後悔混じりの表情を浮かべながら黙り込む少女。
へえ・・。
どうやらナナにとって『おチンチン』より『オナニー』の方が、口にする際の心理的なハードルは高いようだ。
或いはこの辺りにナナの悩み事は潜んでいるのかもしれない。
「そう。胃袋とおチンチンで出来てるんだよ、男って。」
「胃袋と・・おチンチン・・・。」
言葉を途切らせた瞬間、少女の腹が空腹を訴えて鳴る。
噴き出しそうになりながら、壁の時計を見るサクラ。
いつの間にか時刻は十二時を過ぎていた。
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