少女、、ナナは話し始める。
「恥ずかしいと・・ドキドキしますよね。」
「うん、する・・よね。」
そのことにナナが気付いたのは、小学四年生か五年生の頃であった。
不注意によりスカートが捲れ上がる、時として男子の視線が気になる。
そんな時の気持ち。
「よくある話・・じゃないかな?」
「・・はい。でも・・」
スカートの中に穿いている下着を見られる、着替えを見られる、そういった際の恥ずかしさとは微妙に異なる恥ずかしさを感じることに気付いたナナ。
だが、その違いは分からない。
漠然とした違和感を抱いたまま、日々を過ごすうちにナナは性的に成熟し始める。
「・・自分で・・その・・」
曖昧に表現を濁すナナ。
黙って聞くことしか出来ないサクラ。
年頃の少女であれば、ほとんどの者が経験するであろう感覚。
ナナは自分の躯の奥底から生じる性的な快感に目覚めていく。
「・・最初はよく分からなくて・・」
サクラにも覚えがあった。
ふとしたキッカケにより性的な快感を覚えることはあっても、それを再現することが難しい。
再現する為に必要な行為は漠然と予想がつくのだが、その行為をする為には、微妙にしてデリケートな部分に触れなければならない。
恐る恐る、おずおずと外堀から徐々に埋めていくような、しかも小石を放り込みながら堀を埋めるような迂遠な作業。
試行錯誤を繰り返し、自分なりのルーチンを発見するのだが、心身のコンディションに左右されるのか、常にうまくいくわけでもない。
何よりも秘めたる行為をする場所も限られるのが一般的な悩みだ。
「そうなんですよぉ。」
我が意を得たり、とばかりに語り始めるナナの話は家族に及ぶ。
「あたしのウチ、三人姉弟で、弟が二人いるんですよ。」
現在、中学一年生と小学五年生の弟がいるというナナ。
道理でというべきか、しっかりしたお姉さん然としているのも頷ける。
『お姉ちゃんでしょ。』
『お姉ちゃんなんだから。』
幼い頃からワリを喰っているような気がしていたナナは、産まれて初めて『姉』として最大のアドバンテージを手に入れる。
年頃を迎えた娘の気持ちを配慮したのか、中学入学を機にナナは個室を与えられたのだ。
「中学生になったら勉強も沢山しなきゃいけないんだから。」
不満を訴える二人の弟を尻目に、プライベート空間を手に入れたナナ。
「そりゃ・・しちゃう・・ね。」
「しちゃいましたねー。」
真顔で答えたナナは、自分の大胆な発言に気付き、頬を染める。
可愛いな・・。
恥じらう少女を辱しめてはなるまい。
サクラは自分の話に切り替える。
「うちは姉と二人姉妹だったから・・」
七歳違いの姉。
手狭なサクラの実家では、娘達に個室を与える程、部屋数に余裕が無い。
加えて歳が離れていることも手伝って、姉が大学進学を機に一人暮らしをする迄は同じ部屋に二段ベッドが置かれていた。
姉は上段、サクラは下段。
幼いサクラがベッドの上下を交換するように頼んことがあった。
普段は歳の離れた妹に優しく、大概の頼みを聴いてくれる姉も、この件だけは頑として譲ってくれない。
様々な意味で姉にとっての聖域であったのだ。
「じゃ、お姉さんは上のベッドで?」
「してた、と思う。いや、してた。」
断言するサクラ。
勿論、姉が自慰に耽る姿を見たことはない。
だが、時として。
尿意を覚え、深夜に目が覚めたサクラはベッドの上段から漏れてくる唸り声を耳にすることがあった。
小学生になったばかりであっただろうか。
当然の如く、幼い妹には唸り声の意味が分からない。
今、思えば、明らかに甘く湿っぽい響きの混じった唸り声であった。
サクラが中学生になる前に、姉は一人暮らしの為、家を離れたのだから、リアルタイムで姉の唸り声の意味を理解しながら聞いたことはないはずだ。
「お姉さんの気持ち、分かりますよ。」
感慨深げに呟くナナ。
「いやぁでも、意外とあたしに聞かれたらどうしよう、とか思って興奮してたかもよ?」
サクラにしてみれば、単なる冗談、軽口のつもりであった。
だが、途端にナナの顔が強張り、唇は真一文字に結ばれる。
あれ?
・・地雷、踏んじゃった?
戸惑いを隠しきれないサクラ。
一瞬浮かべた躊躇うような表情を振り払うようにしてナナは口を開く。
「ここからが・・本題です・・。」
え?
今迄は序章・・?
その時、ソファの横にあるローテーブルに置かれていたスマホが着信を告げて震え始めた。
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