ん?
えっと・・今日は土曜日・・
・・まだ寝てても大丈夫・・
・・今、何時?
・・あれ、スマホ・・が無い?
一瞬にして現実に引き戻されたサクラは、文字通り飛び起きた。
昨夜、というか今朝方の出来事が走馬灯のように脳裏をよぎる。
取り敢えず、様々な失態を頭の隅に押しやったサクラは、スマホの手続きをするべく想いを巡らせる。
・・今は・・八時半。
携帯ショップの開店は早くて九時、恐らくは十時だろう。
ならば、さほど慌てる必要は無い。
洗濯機を回しながら、歯を磨き顔を洗ったサクラが外出の支度をしようとしていた時のことであった。
「!」
訪問者を知らせる電子音が鳴る。
・・誰?
・・土曜日の朝・・宅配便?
映りの悪いインターフォンの液晶画面を覗けば、そこには私服を着た少女が映っている。
サクラには見覚えのない顔だ。
どちらさまですか?
・・・さんのお宅ですよね?
サクラさんはいらっしゃいますか?
・・サクラは・・あたしですけど?
スマホ、無くしていませんか?
え?
慌ててサクラが玄関の鍵を開け、ドアから顔を出すと、やや緊張した面持ちの小柄な少女が立っている。
少女は肩から提げたトートバッグを探ると一台のスマホを取り出した。
「はい、これ。あ、でも一応、本人確認させて下さい。」
「本人確認?」
「サクラさんの電話番号、教えて下さい。」
少女はトートバッグを探り、別のスマホ、、恐らくは少女自身の所有物、、を取り出しながら言う。
なるほど。
あたしが言った番号に、この子のスマホからの着信があればってことか。
少女が自分のスマホを操作し終えると、程なくサクラの携帯が震え出す。
液晶画面を見つめていた少女は、サクラの顔に視線を移しながらスマホを差し出した。
「間違いなくサクラさんのスマホです。」
「ありがとう。助かっちゃった。」
「良かった。困ってるだろうなって・・」
昨夜、スマホを拾った少女は翌日、警察に届けようと自室の机の上に自分のスマホと並べたまま眠りに就いた。
「七時半頃かな・・」
不意に震え始めたスマホ、少女が枕元の目覚まし時計を見れば、時刻は七時半過ぎ。
自分のスマホへの着信かと思った少女は、寝惚けマナコを擦すりながら着信を受ける。
『あ、サクラ?俺俺。あのさ・・』
謎の男からの着信。
男はベラベラと一方的に喋り続ける。
寝起きで頭が回らない少女は、呆然として黙り込むことしか出来ない。
「『オレオレ詐欺』かと思いました。」
だが、少女は自分が手にしているスマホが昨夜、拾ったものだと気付く。
『・・あれ?サクラ・・?』
ようやく異変に気付いたかのように、男は話を途切らせた。
チャンスとばかりに少女は会話の主導権を奪う。
『あの・・ですね・・』
今、男が通話しているスマホは昨夜、拾った落し物であり、これから警察に届けようと思っていた旨を告げる。
話をしているうちに『サクラ』は男の妻であり、男は出張の為、家を空けているらしいことが判明する。
恐縮した男は、朝早くから騒がせてしまったことを詫び、妻に、、『サクラ』にスマホを引き取りに行かせるので住所と名前、連絡先を教えて欲しいと言う。
『えっと・・』
確かに取りに来て貰えば、話は早い。
少女の手間も省ける。
だが、見知らぬ男に自分の個人情報を晒すのは如何なものか。
男に悪意は無さそうだが、万一という可能性も無いではない。
そもそも、サクラという人のスマホが少女の手元にある以上、男がサクラと連絡を取る術はあるのだろうか。
そして少女にとっては何よりも、スマホの持ち主、サクラという人物に興味があった。
暫し考えた少女は自ら届けに行く旨を伝え、電話口で聞いた届け先の住所を控える。
電話を切った少女は男の告げた住所情報を検索し、サクラの家の位置を調べる。
最寄りは隣の駅。
だが、廻り道になりそうだ。
ならば、歩いて行こう。
ふと見れば、少女の家とサクラの家、そして昨夜、少女が彼氏と睦み合った公園は、ちょうど正三角形の位置関係を成していた。
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