放心したかのように宙を見つめるサクラ。
呆然とした意識を最初に捉えたのは、生理的な感覚であった。
生暖かく濡れた下着が気持ち悪い。
シャワーを浴びようと立ち上がりかけたサクラは、長時間に渡り同じ姿勢で座り込んでいた為か、脚が痺れて感覚が無い。
加えて未だ抜けていないアルコールの酩酊感も手伝って、その場に尻餅をついてしまうサクラ。
「おっと。」
呟いたその時、不意にサクラの鼻腔を襲う発情した牝の匂い。
え?
戸惑いながら視線を下に向ければ、尻餅をついた際に翻ったのであろうスカートの裾が捲れ上がり、太腿の半ば以上が露わになっていた。
スカートの内側から立ち昇る、噎せ返るように濃密な牝の匂いに動揺を隠せないサクラ。
はしたない妄想に耽った。
自慰に耽った。
下着を汚している自覚もあった。
だが、ここまで濃密な牝の匂いを嗅いだ経験は無かった。
改めて立ち上がったサクラは、スカートを直しながら尻のあたりを覆う生地に触れる。
若干、湿り気を帯びているような気もしないではないが、概ね問題は無い。
スカートの生地は黒、仮に湿っていても触らない限り分かりはしないであろう。
時計を見れば時刻は午後の九時半過ぎ。
窓の外では、少し風が吹いているのか、隣家の植木が不規則に揺れている。
「寒い・・かな・・。」
小さく呟いたサクラは、少し考えて春物の黒い薄手のハーフコートに手を伸ばし袖を通す。
防寒を意図してハーフコートを羽織ったわけではなかった。
この姿をそのまま他人の視線に晒す勇気が無かったに過ぎない。
それは鎧だった。
たかがハーフコートとはいえ、周囲の視線からサクラを守ってくれるような錯覚に縋りついただけ。
今からサクラがしようとしていること。
それは先刻まで読んでいた官能小説の登場人物のように、素肌を他人の眼に晒すわけでもない。
ましてや見知らぬ誰かに躯を触れられるわけでもなければ、性行為を無理強いされるわけでもない。
このままの姿で屋外を歩く、ただそれだけに過ぎなかった。
『ちょっとコンビニに行ってくる。』
『このままの格好でいいよね。』
そんなノリだ。
仕事から帰って来た時の服装なのだから、人前に出ることには何の問題も無い。
ただ、いつもと違うのは、スカートの下に穿いている下着をサクラが汚している点だけだった。
いや、汚しているなどというレベルではない。
濃密な匂いを放つ液体により、グズグズに濡れそぼった下着を穿いて屋外を歩く。
それだけだ。
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