暗いリビングの床に座り込んだサクラは、掌の上で光る液晶画面に向かって葛藤していた。
汚れたショーツは生暖かく濡れて気持ち悪い。
シャワーを浴びたい、着替えたい。
だが、掌で光る液晶画面から視線を逸らすことが出来ないサクラ。
誰も見ない・・よね・・。
見ても・・気にしないよ・・ね。
それはそれで寂しいが、今まで通りの日常に戻るだけだ。
ゼロベース、前にも進まず、後ろにも退がらない毎日が続く。
それでいい。
いや、そうでなくては困る。
何処かのサーバーの片隅に半永久的に埋もれることになるサクラの淫らな想い。
誰も知らない、誰の眼にも触れることのない想いは、デタラメに撒かれた種子のようなものだ。
誰の眼にも留まらず、世話をされることも無いのだから、芽吹くこともないだろう。
それでもサクラは最後にダメ押しを加える。
>私は、43歳の女性です。
最後の行に追加した一文。
少なくとも若い・・二十代、三十代の女性よりは、興味を持たれる可能性は減るであろう。
興味を持たれるのは厄介だ。
不愉快な想いをするかもしれない。
だが、誰も見向きもしなければ、それはそれで寂しい。
矛盾してる・・。
それはサクラ自身が一番、分かっていた。
サクラは無意識のうちに無意味な改行を行っている自分に気付く。
最後の一文をスクロールしなければ、、そのままでは眼に触れ難いようにしている自分に自問自答するサクラ。
どっちなの?
知られたいの?
知られたくないの?
答えはイエスであると同時にノー。
始末に負えない自分自身に憤りすら感じながら、サクラは衝動的に確定処理を進める。
『規約に同意し投稿する』
タップするや否や画面が切り替わる。
賽は投げられた。
どんな結果になっても構わない。
それは罪の意識により、遺体を発見され易いように放置する殺人犯のそれと似ていたかもしれなかった。
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