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ノンジャンル 官能小説

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投稿者:J
◆WCdvFbDQIA

ここから後は後日譚。

儀式を終えた数日後、冷静さを取り戻した大人達に呼び出されたヤヨイとあたし。
おメデタイね、大人って。

「・・そこに座りなさい・・。」

・・中学生の分際で・・。

・・いったい、どういうつもりだ・・。

身体を縮めるヤヨイの横、あたしは完全に開き直っていた。

は?

何ですと?

っつーか、ムカついていました、あたし。

「え、ダメなの?」

あたしは無邪気を装ってトボけた質問を投げ返す。
弱冠十五歳の汚れない乙女を衆人環視の下、裸に剥いてヤッてしまおうとしていらしたのは、いったい何処のどちらさん達でしたっけ。

さすがに口にはしない。
後日、ヤヨイは遠い眼をして語る。

ケダモノみてぇな眼ぇしてたな・・。

やかましいわ・・。

だが、喧嘩上等のあたしの視線から、先に眼を逸らしたのは大人達だ。

勝った・・。

お説教は頭を下げて遣り過ごすに如くは無し。
だけど主張すべきはしとかなきゃ。
別の言い訳も考えたけど、ね。

えーっと、その・・

あれはスキンシップ・・の延長・・

・・ダメか。

言わぬが花ってのは、こういうことよね・・。

何はともあれ、遠回しに『不純異性交遊』を禁じられて解放されたあたし達。

不純じゃねーし。

ヤヨイとの純愛歴なら、あたし十五年以上だし。

それに、だ。
保護者のいないあたしは、ヤヨイの家の養女に迎えられることになっていたのだ。
ひとつ屋根の下に暮らすのだから、禁止事項なんて何するものぞ。
ムフフな時間を過ごすなんて、チョロいもんよ。

ヤヨイは希望通りの高校に進学し、あたしは養父、、ヤヨイのお父さん、、の川漁を手伝いながら、翌年から四年制の定時制高校に通うことになる。
学費を含む金銭的問題、受験準備の不足による学力不振などの要素もあったが、『噂のサツキちゃん』が入学するとなると、田舎の高校は一様に難色を示したらしい。

・・いーもん、別に。

・・勉強、嫌いだもん。

ちょっとだけ傷ついた、けど・・さ・・。

・・淫売とか・・・ヤリマン・・とか・・

違うもん・・・・。

あたし、違うからね・・。

・・・・大っ嫌い。

両親と過ごした実家は翌年、区画整理で取り壊されてしまうことになる。
僅かながら支給された補償金は全て養父母に渡し、学費や生活費の足しにして貰う。
余談だが、養父母は渡した補償金を全て定期預金にして、高校卒業のタイミングで卒業祝いとして通帳と印鑑を渡してくれたのだ。

『・・このご恩は一生、忘れません・・。』

珍しく畏まって礼を言ったあたしは、逆に叱り飛ばされる。

親が娘に卒業祝いを渡して何がおかしい?

儀式の時以来、二度目。
あたしは嬉しさのあまり、泣き崩れてしまった。
言っとくけど、お金じゃないよ。
『娘』って言ってくれたトコロだからね。

ちなみに一度目は、実家の取り壊しの数日前。
あの時はゲロ吐く寸前まで泣いたっけ。

取り壊しが近付くある日、あたしは役所に頼み込んで、取り壊し前に一晩だけ泊まらせてもらう許可を得た。
両親の遺影と位牌を枕元に並べ、持ち込んだ布団を敷く。
あたし独りのお別れ会。
ガスも電気も水道も止められた文字通りの廃屋。
満月の晩だったので、窓からの月明かりだけでも、寝るだけならば支障は無い。
荷物が運び出され、がらんとした古くて小さな家は、カビ臭くて広過ぎた。

そうだそうだ。

ここには箪笥があって、あそこにチャブ台があって、そこに正座させられて母さんに叱られたし、このキズはヤヨイと遊んでいて付けたキズ、夫婦喧嘩の後、不貞腐れた父さんが手酌でお酒を飲んでいたのは・・・

後から後から走馬灯のように記憶が蘇る。
いくら想い出しても次々と蘇る。
想い出すと同時に涙が溢れる。

二人が死んだ時も涙が枯れる程、泣いた。
だけど、あの時は父と母、それぞれを喪うことに対する恐れと悲しみで泣いたのだ。
今は違う。
喪われてしまったものの大きさ、欠落感に対する切なさと哀しさで胸がいっぱいだった。
涙と鼻水で顔をグシャグシャにして泣くあたし。
他人様には見せられやしない。

こんこん

え?

慌てて窓に顔を向けると、心配そうな幼馴染の顔が覗いている。

他人様・・じゃないけど、見るなよ・・。

今のあたし、見られたもんじゃないよ・・。

ずばずばっ

鼻水を啜った音は思いの外、大きい。

・・百年の恋も醒めます・・よ・・。

捨てないで・・下さい。

頼みます・・。

ガタぴし、がたピシ・・

それでも、あたしは輪をかけて建て付けの悪くなった窓を開ける。
いつも通り窓から侵入した幼馴染は、ドッカリと床に腰を下ろす。

「大丈夫?」

月明かりの下、ポツリと呟いたヤヨイの表情は逆光で見えないが、あたしには声で分かる。
あたしが傍にいて欲しいと想っていることを慮って覗きに来てくれたのだ。

「・・大丈夫・・。ぜ、全然、平気・・。」

家族は喪ったが、家族を手に入れたのだ。
新しい家族、大切な家族。
大丈夫に決まっている。
大丈夫じゃないなんて言ったらバチが当たる。
あたしは必死で涙を堪える。

ごつん

・・痛ってーな・・。

おでこ、グーで小突きやがった。

ここらの方言で言えば『ヌシゃ何するでぇ?』だ。

「・・泣きゃいいじゃんか。」

「・・え?」

「『甘い物は別腹』って言うじゃん。」

・・それは・・ちょっと違くない?

「・・どっちが大事じゃなくて、『どっちも大事』なんだろ。」

そう言ったヤヨイは、軽くグーでおでこに触れる。

こつん

ヤヨイの体温がグーパン、、即ちグーのパンチから伝わる。
その瞬間、あたしの感情は爆発した。
喪った家族への想い、そして手に入れた家族への想い。
そして何よりも、あたしの気持ちをいつでも全て察してくれる幼馴染の存在。

わんわん泣いた。

相当、泣いた。

途中、泣き過ぎたあたしは、過呼吸で吐きそうになったが、慌てて背中をさすってくれたヤヨイのお陰で事無きを得て、それでも再び泣き崩れる。

「・・大丈夫かよ?」

「・・うん・・。腹筋・・痛てぇ・・。」

散々泣いたあたしは、ようやく落ち着きつつあった。
あれだけ泣いたのだ。
あたしは限界まで消耗していた。

・・早い話、腹が・・減っていました・・。

え?

それが何か?

ぐぅうう・・・

腹の虫が空腹を訴えて鳴く。
噴き出す寸前のヤヨイを振り返った時、あたしの眼はマジだったらしい。

・・今、笑ったら・・ワァはヌシを殺す・・。

「ほら。」

意に介さぬかのように、ヤヨイはアルミホイルの包みを差し出した。
中には不細工な塩むすびが四つ。

「ふたつずつ、な。」

・・意外に細かいのね・・。

養父母の眼を盗んで作ってくれたのだ。
多分、バレてるけど。

「・・内緒だぞ・・。」

取り出されたのは二本の缶ビール。

・・気が利くじゃないか、ヤヨイ君。

月明かりの下、向かい合って座る、、何故かふたりとも正座だった、、二人は無言のまま、缶ビールを片手に握り飯を食う。

もぎゅ、もきゅ、もぎゅ、もきゅ、もぎゅ・・

ヤヨイがひとつ食う間に、あたしはふたつ食った。
最後の一個を挟んで顔を見合わせる二人。

「いいよ・・。食えよ。」

「・・槌ん。」

堪らえきれず、あたしは三たび泣き出す。
泣きながら食べ、食べながら飲み、飲みながら泣く。
涙と鼻水の付いた塩むすびは、不必要なまでに塩辛い。
我ながら汚ならしい。
ヤヨイの配慮が嬉しかった。
缶ビール一本と握り飯三個で籠絡された安上がりな、けれど幸せの絶頂にいる女の子、それがあたしだった。

ようやく泣き止んで、食べ終わり、飲み終えたあたしの顔を、位置が変わった月からの明かりが照らしていた。
ヤヨイの手が伸び、あたしの頬に指が触れた。
あたしは軽く眼を閉じる。

おでこ、とかホッペ、とか、それとも・・

・・・・・・・・・・・・・・・あれ?

・・何かが違う。

薄眼を開けると、あたしのホッペとアゴについたご飯粒を、指で摘まんでは口に運ぶヤヨイの姿が目に映る。

「塩ょっぺぇ・・。」

ぐぉおぉぉお。

残念過ぎる女、No.1決定。
その名はサツキ。
立場が逆だったら、嫁に迎えるのは考え直すかもしれない。
儀式で剥き出しの下半身を晒された時に次ぐ恥ずかしさだった。

「そうだ。忘れてた。」

ヤヨイは両親の遺影と位牌をキチンと並べ始める。

「この家で言っておこうと思って・・。」

他の場所では、、、今を逃したら、、伝わらないような気がするというのだ。

・・何が?

・・誰に?

・・伝わらないって?

ヤヨイは遺影に向かってボソボソ語り始める。

あたしを不安にさせてしまったこと。

あたしに恥をかかせてしまったこと。

いざという時、助けてもらったこと。

そして、たくさん泣かせてしまったこと。

・・だから・・

「だから・・ワァは・・」

珍しくハッキリと言ってのけるヤヨイ。

二度とサツキを泣かせない。
絶対に泣かさない。
約束する。

馬鹿。

親じゃなくて、あたしに言えよ・・。

ウソつき。

だいたい、いきなり約束、破ってるじゃんかよ・・。

・・泣かさないって・・言ったじゃないかぁ・・。

あたしは泣く。
嬉しくて泣く。

『甘い物は別腹』・・か。

涙だって二種類だ。
悲しい涙と嬉しい涙。

あたしが次に悲しくて泣くのは、ヤヨイが死んだ時だ。
まあ順番から言って、あたしの方が先だから、あたしが悲しくて泣くことは、今のところ二度と無い筈だけどね。

完結


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19/09/21 00:17 (C5HaJ7JP)
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