冬が来た。
生まれてから十五年間で一番厳しかったあの冬。
いや、あたしの人生を通しても一番厳しい冬だったのは間違いない。
あたしは学校も休みがちになっていた。
好奇と憐憫に満ちた周囲の視線が煩わしい。
何よりもヤヨイと顔を合わせるのが辛かった。
誰とも会わず、家に閉じ篭ったあたし。
神主の奥さんだけが、ちょいちょい顔を出して世間話をしては帰っていく。
あたしの気が変わることを期待していることが、暗に仄めかされる。
心配してくれているのだ。
『囲ワレ者の儀』まで残すところ一ヶ月。
ある日、あたしは奥さんから小さな紙袋を手渡された。
生理の周期を調整する為の薬。
「・・子供は・・持てないの・・。」
ああ。
そういえば言ってた、な・・。
僅か数ヶ月の間に、あたしの人生から次々と可能性が削ぎ落とされていく。
最悪のシチュエーションで破瓜を経験し、集落の男衆全員の慰みモノとして子供を持つことすら許されない。
挙げ句の果てには早死にする可能性が高い。
正真正銘の共有財産、しかもその維持経費は決して歓迎されるものではない。
むしろ、その結末が早めに訪れた方が、集落にとっては有り難いのかもしれない。
・・終わったな・・。
・・散々、弄ばれて終わり、か・・。
・・しかも早く片付けってか・・。
「ね。もう一度だけ考えてみてくれない?」
「・・・・。」
心底、あたしの事を心配してくれているのは痛いほど分かる。
誰が考えたって皆んなの言うことが正しい。
あたしだって理屈は理解している。
天秤の傾きは圧倒的なのだ。
だが、その天秤にヤヨイという要素が加わった瞬間、あたしにとって、その傾きは真逆になってしまう。
「・・・奇跡は・・起こるかな・・?」
あたしは切迫していた。
無け無しの可能性に縋るしかないのだ。
言葉が詰まった奥さんは視線を逸らす。
「・・・分からない・・・。」
有り得ないとは言わずに去っていく奥さん。
有り得ないから奇跡なのだ。
あたしは再び独りになった。
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