「本気か?」
「考え直さんか?」
あたしは集落から出たくないの一点張り。
頑固娘に業を煮やした長老と神主は、プリプリしながら帰っていく。
翌々日、ピンチヒッターとして神主の奥さんが訪ねて来た。
「よく聞いて考えて欲しいの・・・」
囲ワレ者が、どういったものか。
どういった儀式を経なければならないのか。
集落全体の共有財産であり、集落中の男に躯を開く義務があること。
子供を持つことは許されないこと。
想像を絶する屈辱を抱えて生きていかなければならないこと。
そして短命、いや自ら命を絶つものが多いこと。
「・・それでもワァは・・・」
この集落に居たい。
この集落以外では生きていけない。
「ね、理由を教えてくれない?」
言えなかった。
もしヤヨイが知ったら、ヤヨイは苦しむに違いない。
あたしは俯いて黙り込む。
「好きな人がいる、とか?」
ぴくり
思わず反応してしまった。
・・女の勘って凄げぇ・・。
「その人に気持ちを伝えて、さ・・。」
・・伝えてあるし・・・。
「相手の気持ちを確かめてさ・・。」
・・確かめてあるし・・・。
「時々、会いに来れば?」
・・分かってない・・。
会わなくなって、ヤヨイの気持ちが変わってしまうのであれば、仕方がない。
あたしが諦めれば済むことだ。
だが仮にあたしの気持ちが変わってしまったとしたら。
そんな可能性が少しでもあることが分かっていながら、その選択をするのであれば、それはヤヨイに対する裏切りだ。
そんなことになったら、あたしは自分を許さない。
絶対に許さない。
だからこそ、あたしはその選択肢をしたのだ。
「囲ワレ者になったら・・・」
改めて言うが、好むと好まざると集落中の男衆に定期的に、求められた時に躯を開かなければならない。
その事実は秘密でも何でもない。
「その人にも諦めてもらわなきゃいけないし、サツキちゃんだって諦めるしかないのよ?」
・・分かってる・・。
・・分かってるから困ってるんじゃないかぁ・・。
「後悔しない?ううん、きっと後悔すると思う。」
・・・後悔なんか・・・
するに・・決まってるじゃないかぁ・・。
ヤヨイを失い、あたし自身は人並みの幸せを永遠に失うのだ。
何年後かにあたしは必ず後悔する。
それでも尚、優先すべきこと。
それは今、後悔しないことだ。
・・ごめんね。何年か後のあたし・・。
溜め息をついて奥さんは言う。
「分かった。もう何も言わない・・。」
「・・・」
「話は変わるけど、サツキちゃんはオボコでしょ?」
オボコ、つまり男を知らない女。
悔しいが、それには絶大なる自信がある。
散々エロいことはしちゃったけど、そこだけは自信がある。
「自暴自棄にならず、大切にしなさい。」
もし、あたしがオボコであるのなら、それが奇跡を起こすかもしれない。
そう言って奥さんが帰っていった後、あたしは一人で考える。
どうせ好きでもない男に初体験を奪われるのであれば、無理矢理にでもヤヨイに奪って貰おうかと考えていた矢先のことだった。
ヤヨイも含む集落中の男衆に見られながら、好きでもない男に奪われるくらいなら、どんなに痛くてもその方が遥かにマシだ。
・・奇跡?
・・奇跡って何?
奇跡でも起こらない限り、あたしは救われないことだけは分かっていた。
そして奇跡なんて起こるはずがないことも分かっていた。
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