それから数日の間、あたしの情緒は不安定になっていた。
気のせいか、ヤヨイに避けられているような気がしてしょうがない。
ある日の放課後のこと。
限界に達したあたしは、普段なら笑って済ますような理由で六年生の男子と口喧嘩を始め、思わずヤヨイを傷つけてしまう。
視界の端に映ったヤヨイの顔が強張る。
しまった・・。
不用意な発言が呼んだ周囲の大爆笑に背を向け、ランドセルを背にしたヤヨイが帰っていく。
あ。
あ。
・・待ってよぅ・・。
慌てて帰り支度をし、ヤヨイの後を追ったっけ。
堤防でヤヨイに追いついたあたしは、残り僅か数メートルの距離が詰められない。
ヤヨイの背中からは、拒絶のオーラが色濃く発せられている。
・・来るな・・・。
・・・話し掛けるな・・。
堪らず意を決して話しかけてみる。
「・・怒った?」
「・・怒ってない。」
・・怒ってるじゃん・・。
動揺のあまり、あたしは理不尽にも逆ギレ寸前。
辛うじて自分を抑えながら打開策を考える。
とにかく二人になって謝らなければならない。
御誂え向きに二人きりになれる場所に近づいていた。
今しか無い。
「腹、減った・・。」
「へ?」
河原の秘密基地で魚を捕まえて食べながら・・そこからは後で考えよう。
見切り発車も甚だしいが、あたしはヤヨイを強引に川遊びに誘い込む。
いつも通りの役割分担、あたしが魚を捕まえている間にヤヨイは焚き火を用意する。
あ。
大失敗。
いつも通りにワンピースを脱いだ瞬間、あたしは硬直した。
・・ヤヨイの眼の前で裸になる?
だが今更どうしようもない。
震える手で下着を脱ぎ捨てると、魚を捕まえる為ではなく、身体を隠す為に川に入る。
少しでも長く川の中に潜っていたい。
そうすれば、この不恰好な裸を再びヤヨイに見られるまでの時間を少しでも先延ばしすることが出来る。
だが初夏の川、流れは冷たい。
限界に達したあたしは、冷え切った身体を引き摺るようにして岸に上がる。
勢いよく燃える焚き火。
ヤヨイが用意してくれた温もりが、冷え切った身体に染み込んでくるようだ。
身体を縮めて体育座りをするあたしをヤヨイは怪訝そうに見ている。
そうだ。
今までだったら、あたしは胡座をかいていた。
つまり股間は全開、『女の子の大切なところ』は完全に晒されていた筈だ。
ひゃー。
・・馬鹿、馬鹿、あたしの馬鹿・・
耳まで赤くなっているのが自分でも分かる。
過去の恥ずかしい失態を恥じている自分が更に恥ずかしい。
幸いにしてヤヨイは怒ってはいないようだ。
ならば。
恥かきついでだ。
言ってしまおう。
・・本気だよ・・。
「ワァはヌシの嫁になる・・。」
言ってしまった。
告白をスッ飛ばしてプロポーズ・・
今考えれば、あまりにも唐突に過ぎた。
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