昔の夢を見た。
あたしが初潮を迎えたのは、小学五年生の時だった。
一人娘の成長を祝って赤飯を炊く母。
事情を聴いて戸惑いを隠せない父。
大量に炊かれた赤飯。
母は近隣にお裾分けをすると言う。
・・分かっちゃう・・
・・女になったってんだって・・
・・皆んなに知られちゃう・・・
誇らしい反面、変わっていく自分に対する怖れがあった。
変わっていくあたしをヤヨイはどう思うだろう。
その時、初めて気が付いた。
あたしの軸はヤヨイなんだ。
・・距離を置かれたらどうしよう・・
・・一緒にいられなくなったら、どうしよう・・
それは純粋な恐怖だった。
俯いて泣きそうになる程にヤヨイの存在が身に沁みる。
夕焼けの中、ヤヨイの家に、、僅か数十メートルに過ぎない、、向かう母とあたし。
着いた。
勝手口から声を掛ける母。
逃げ出したい想いを辛うじて抑え、あたしは母の陰に隠れてしまう。
「あら?あらあらあら・・。」
「お陰様で・・。」
あたしは俯いてモジモジすることしか出来なかった。
我ながら、らしくない。
具体的な単語は無くとも、状況を忖度した母親達は、世間話に興じ始める。
・・早く帰ろうよぉ・・・
・・ヤヨイに会ったら困るよぉ・・
「お?サツキ、風呂、入れるぞ!」
・・・会っちゃったじゃん・・・
「い、い、一緒には入らん!」
思わず叫んでしまった。
集落全体に聞こえたかもしれない。
ひょっとしたら、あたしが『女になった』ことも知られちゃったかも、だ。
呆気に取られた母親達は、次の瞬間、大爆笑だ。
気圧されたかのようなヤヨイは、戸惑いながら風呂に向かって姿を消した。
・・あれ?
あたし・・
泣いてる・・・
ボロボロと溢れる涙。
あたしは、その場にしゃがみ込んで泣き出した。
取り乱す母親達は、挨拶もそこそこに各々の家に向かう。
しゃくりあげる一人娘、、恐らくは母でさえ想定外のリアクション。
とっぷりと暮れた家路を辿りながら、ポツリと母が呟いた。
「ヤヨイ君のオヨメサンにしてもらおっか?」
勿論、冗談半分だったに違いない。
だが、娘の反応はストレートに過ぎた。
「・・して・・くれる・・かな・・。」
あたしは鼻をすすりながら呟いた。
やや戸惑いつつも、根拠のない安請け合いをする母。
そして、あたしは産まれて初めて自分の気持ちに気付いていた。
目を覚ましたあたしは、夢だったことに気付く。
そうだった・・。
一気に記憶が蘇り始める。
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