挨拶は無難に終わった。
父さんが死んでから、寝込むようになった母さんが後を追うかのようにこの世を去る。
今度は本当に喪主として挨拶をした。
ヤヨイが助けてくれたのは勿論だ。
初七日を済ませ、納骨を終えた頃、集落の長老と神主がウチを訪ねてきた。
「・・これから・・どうするか、だな。」
最初に提示された選択肢の表現は遠回しだった。
このまま集落に住むか、それとも遠方にある公的な支援を受けられる施設に入るか、だった。
前者であれば、今のまま住み慣れた家に住んでヤヨイの近くにいられる。
考えるまでもなく、前者を選びたい。
「その場合は・・・」
神主に促されて長老が説明を始める。
説明が進むにつれ、あたしは顔が引き攣っていくのが分かった。
囲ワレ者?
共有財産?
今時?
あたしは無意識のうちにヤヨイの姿を探すが、当然の如く無駄骨に終わる。
何も考えられない。
二人の話も耳に入らなくなっていた。
「・・今すぐ決める必要はない・・・」
だが、決して時間があるわけではない。
この段階であたしが囲ワレ者になることを選ぶとは、二人は考えもしていなかったらしい。
まともに考えれば、誰だってそうだろう。
二人が帰っても、あたしは身動ぎひとつ出来なかった。
施設に入り、働きながら定時制高校に通う。
いや、高校には行けないかもしれない。
それはそれでいい。
だが、天涯孤独の身の上にあるという事実が、改めてあたしの選択肢を狭める。
両親を失った今、あたしは根無し草だ。
真っ当な選択をすることは、つまり生まれ育ったこの集落、両親との想い出が詰まった家、何よりもヤヨイとの決別を意味する。
帰る場所があって、故郷を後にするのと、帰る場所から切り離されて、故郷を失わざるを得ないのとは全く意味が異なる。
両親を失った以上、あたしが帰る場所、故郷と呼べるのは、この集落、、いや、ヤヨイの存在だけだ。
だが、その為には、、、せめて物理的にでもヤヨイの近くに居る為の選択肢はひとつしか無い。
囲ワレ者、、つまりは娼婦だ。
しかも相手を選ぶことすら出来ない。
集落全体に共有される性的な意味における慰み者だ。
灯りも点けずに暗がりの中で座り込んでいるうちに、いつしか眠り込んでいた。
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