深夜になっても、いつ果てるとも知れず宴は続く。
「今夜は特別ぢゃ。」
御歳九十歳の長老の一言により、未成年にも酒が振舞われ、『飲んでも良い』から『飲め』、更には『何故、飲まん』になっていく。
場は益々、乱れる。
当然のことながら、僕とサツキにも盃が渡され、次々と酒が注がれた。
二人とも酒を飲むのは、これが初めてというではない。
僕も決して弱くはないが、サツキはウワバミだ。
幾ら盃を干してもケロリとしている。
「・・トイレ・・。」
そう言って立ち上がったサツキは、一歩だけ足を運んで立ち止まると、顔を歪め下腹部を手で押さえた。
皆の不安げな視線に気付いたサツキは、照れながら呟いた。
「・・歩くと・・痛い・・。」
大爆笑を背にしたサツキは、歩幅を普段の半分以下にしてチョコチョコとトイレに向かう。
さすがに心配になった僕も、トイレを装って席を中座する。
渡り廊下の先、離れにあるトイレ。
サツキの後を追ってトイレの前で待つ。
だが、結構な時間が経っても、サツキは出て来ない。
こんこん
心配になった僕は、トイレをノックしながら呼び掛けた。
「大丈夫・・?」
「うん。大丈夫、大丈夫。」
トイレのドア越しだが、声も話し方もしっかりしているようだ。
宴席に独りで戻るつもりもない。
トイレから出て来たサツキと入れ替わりに、大量の小便を済ませた僕はトイレから出る。
「へへへ・・。」
律儀にもサツキは、ご満悦の笑みを浮かべながら、トイレの前で待っていた。
田舎の神社は敷地が広く、ちょっとした雑木林の中に在るかのようだ。
「よっ。」
僕はトイレのスリッパを拝借すると、縁側から庭に出た。
冬の深夜にしては、寒くない。
サツキは、と振り返ると渡り廊下の上でスリッパを手にしたまま、何事かに逡巡していた。
あ、そうか・・。
歩くと痛い、確かそう言っていた。
縁側から飛び降りたら・・・痛い・・のか?
「・・ほら。」
サツキに背を向けた僕は、身体を前傾させる。
オンブしてやるよ、のジェスチャー。
ドサッ
げ、飛び乗りやがった。
危うく背中に乗せたサツキ諸共、ひっくり返るところであった。
何とか踏み止まることが出来たのは、運が良かったに過ぎない。
「ば、馬鹿、危ねーだろ・・。」
「へへへ・・。」
顔を見なくても分かる。
声だけでも分かる。
背中から聞こえるご満悦な時の笑い方。
・・・お前、ズルいぞ・・。
僕は何も言えなくなってしまう。
「・・・後悔・・してない・・の・・?」
「・・してる。凄っごく後悔してる。」
「・・・」
見なくても分かる。
背中のサツキが身を縮めた。
馬鹿・・違う・・
最後まで聞けよ・・
「一秒でも二秒でも早く、手を挙げていれば・・」
サツキの不安を感じる時間は、一秒でも二秒でも減った筈だ。
それに結局のところ、僕独りでは何ともならなかったのだ。
サツキに助けて貰ったからこそ、今の状況に辿り着いているに過ぎない。
「・・馬鹿・・。」
サツキの声が温かく湿っていた。
同時に少女は僕の背中にしがみつき、不甲斐ない幼馴染を優しくなじる。
「・・フーフなんだから助け合わにゃ・・。」
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