結局、大宴会となった。
神主の計らいで、サツキ、僕の順に風呂を使わせてもらっている間に、集落の全員に集合の触れが廻ったのだ。
まさに全員総出となっていた。
「いやぁメデタイ、メデタイ。」
既に酒が入った神主を始め、大人達は異口同音にメデタイを繰り返す。
事前の説明であったように、囲ワレ者の制度自体が集落にとっての負担であり、それが回避出来たことが先ずはメデタイ。
「それに、な・・」
小さな集落の中で最低限の相互扶助の制度とはいえ、囲ワレ者になれば、僅かな対価と引き換えに誰にでも躯を開かねばならない。
その屈辱に、誰でも長く耐え切れるというものではないらしく、過去の記録を見る限り、囲ワレ者は極めて短命、かつ自ら命を絶ったと見られる死因が異常に多いという。
「十四、五の小娘を、そんな目に合わせたいヤツはおらんよ・・。」
神妙な顔をしていたのは僕だけだ。
普段着に着替えたサツキの顔は、終始緩みっぱなしで僕の側から離れようとしない。
そりゃそうだ。
囲ワレ者にならずに済んだ上に、念願叶って僕の嫁になることが決まり、しかも集落公認なのだ。
慌てて駆けつけた母は、嬉しさのあまり感極まって号泣し始める。
サツキが囲ワレ者にならずに済んだ事が嬉しく、弱虫の僕が、勇気を振り絞って侠気を見せた事が嬉しいのだという。
既に酔っ払っていた父は、満足そうな表情を浮かべ、今日を最後に酒を断つと言う。
「家族が一人増えるからな・・。」
節約するのだと言うが、いつまで続くのかは怪しいものだ。
その時、洗ったばかりの白い薄物を、神主の奥さんが運び込む。
「おぉ。来たか。」
怪しげな足取りで立ち上がった神主は、まだ乾かぬ薄物を皆の前で広げた。
薄物の生地、中心より少し下には、顔くらいの褐色のシミがある。
それこそがサツキの破瓜により流された血の跡だ。
おぉおおぉぉぉおお・・・
感嘆のドヨめきが響き、羞じらいのあまり耳まで赤くしたサツキは、俯いて両手で顔を隠す。
僕が風呂に入っている間に、サツキは神主の奥さんから説明を受けたという。
「これが証文代わり・・。」
既に呂律が廻らぬ神主に変わり、しっかり者の奥さんが皆に説明する。
サツキが生娘であった証であり、僕が初めての男である証となり、乾き次第、サツキに贈られることになる。
「何てったって、ヤヨイ君がサツキちゃんをキズモノにしたんだから、責任はとって貰わなきゃね。」
今日、何度目かに皆がドッと沸いた。
酔っ払った神主が、間髪入れずに余分なことを言ったのだ。
「しかし、あのキツキツを破るとはなぁ・・。」
あぁ。
もう好きにしてくれ。
完全に僕達は宴会の肴にされていた。
呼び寄せられた友人達が、サツキを、、ついでに僕を取り巻き始めた。
口々に『良かった』を繰り返し、感極まった女子達は涙ぐんでいる。
「・・身体は・・大丈夫?」
遠慮がちに誰かがサツキに問い掛ける。
神主の奥さんが、風呂で様々な処置をしてくれたらしい。
道理で長い風呂だったワケだ。
それに暫く前から、サツキは経口避妊薬を処方されていたと言う。
囲ワレ者は子を持つことは許されないのだ。
「・・昔は・・」
それでも妊娠してしまった場合、川に浸かり身体を冷やして堕胎したと聞かされた瞬間、辺りは静まりかえる。
「その・・やっぱり痛かった・・?」
破顔一笑のサツキ。
「痛いの何のって・・・まだ痛い・・それに・・」
それに?
皆に続きを促されたサツキは、下腹部に手を添えながら、ふにゃふにゃの笑顔を浮かべて呟く。
誰が見ても極上の笑顔だ。
「・・ワァの中に・・まだヤヨイがいるみたい・・。」
ひときわ高く女子達の嬌声が響き渡った。
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