その日が訪れた。
早目に晩飯を済ませると、僕と父は神社に向かう。
黙ったまま夜道を歩くうちに、三々五々と人影が増えていく。
と、言っても小さな集落の事とて、総勢二十人にも満たない男達が、神社の隅にある集会所に集まった。
直径三メートル程の円を描き、車座に座った僕達の中心には何故か一枚の布団が敷かれている。
「囲ワレ者ノ儀、始めるぞ・・。」
いつもは飄々と人を食った話し方をする神主が、身形を整え、難しい顔をしながら説明を始めた。
相互扶助の一環としての囲ワレ者は、集落の中で妻や恋人以外との性交が、敢えて黙認される対象として存在する。
集落に住む男であれば、誰もが性交する権利と義務を有し、囲ワレ者には性交を拒む権利は無い。
見返りとして、囲ワレ者は、住居と幾ばくかの収入を得ることになる。
「だがな、決して嬉しいだけの存在でもないのは分かるな?」
囲ワレ者が住む家と手にする収入は、集落の各家から集められて成立する。
僕の家も含め、決して余裕のある家ばかりではない。
「だから、囲ワレ者は最後の手段なわけだ。」
出来れば、養ってくれる対象、端的に言えば結婚してくれる相手がいれば、それで万事解決して宴会だ。
だが、結婚するということは独身であることが前提となる。
更にサツキは十五歳、結婚が出来る年齢に達してはいない。
何よりも、今集まっているメンバーの中では、独身、もしくは、結婚の予定の無い十八歳以上の男はいなかった。
そもそも過疎化が進む集落では、高校卒業と同時に進学か就職の為、集落から出て行く若者が多い。
そういう意味では、サツキには囲ワレ者以外の選択肢が無い。
「この後の段取りを説明しとくからな。」
改めて『囲ワレ者ノ儀』の説明が始まった。
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