「・・サツキちゃん、どうだった・・?」
台所に立ったまま、背中越しに母親が呟き。
僕の母親はサツキを殊の外、可愛がっていた。
ひょっとしたら、サツキのことを僕より大切に思っていたかもしれない程に。
その理由は僕の姉の死だ。
姉の死と言っても、僕が産まれる前の話である。
産まれて数ヶ月で死んだ姉。
悲嘆に暮れた両親。
その二年後に産まれた隣家のサツキ。
実の娘のように愛おしんでいたサツキが、こんなことになるなんて。
今日だって別に大した用事も無いのに、あれこれ口実を作って僕をサツキの家に送り込んだのは母だった。
「・・どうって・・。」
言葉を濁す僕を振り返ると、落胆したかのように肩を落とす母。
はっきりしない、煮え切らない、臆病で引っ込み思案な一人息子に失望を隠せないのだ。
その気持ちは痛い程、分かる。
僕自身が自分に失望し、苛立っていた。
「じゃあ何かあるのかよ?」
方法が無いわけではないと言う。
だが今は言えない。
そういう決まりなのだと言う。
その時になれば分かるし、その時に決めなければならないのだ、と。
「その時って・・・?」
母が指し示す先には回覧板があった。
中に挟まれている紙には、明晩七時、数え歳で十四歳以上の男は神社に集まるようにと記されている。
何があるのか分からないし、その時、僕に何が出来るのかも分からない。
だが、サツキの為になら何でも出来る。
いや、出来る出来ないではない。
やらなければならないのだ。
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