いつまでも子供ではいられない。
だが僕達は、哀しい程に子供でしかない事実を思い知らされることになる。
次の年の冬、サツキの父親が急死する。
心労が祟ったのだろうか、サツキの母親が年明けに寝込むようになり、後を追うかのように、その年の秋に亡くなった。
僕達は中学三年生。
僕は十四歳、サツキは十五歳になっていた。
残暑が残る中、しめやかに行われた通夜と葬儀。
事情を知る大人達の間で交わされる会話の中には、サツキの扱いも含まれていた。
身寄りが無くなったサツキの処遇をめぐり、会話を交わす大人達の会話に、ある単語が増えていく。
カコワレモン、、どうやら『囲われ者』のことらしい。
まだ十五だぞ・・。
シキタリじゃ数え歳で十四からだと。
痛々しいな・・。
だいたい、ありゃ後家さんがなるもんだろ?
いや、昔はそういうこともあったらしい。
話を聞く限りでは、過去に前例が無いわけではないらしい『囲ワレ者』。
それは集落における古い相互扶助の仕組み。
何らかの理由で生活の糧を得られなくなった健康な女性に対してのみ適用されるルールだった。
定期的に、しかも望む、望まないに関わらず集落の男達を相手に躯を開くことにより、生活の糧を得る。
そんな・・。
だが、別人のように沈んだサツキの顔を見れば、何も言えなかった。
次第に疎遠になっていく僕達。
躯を交わすことは勿論、言葉を交わすこと、いや顔を会わせることすら減っていった。
年が明けた頃、母からの用事を言付かった僕は、久々にサツキの家を訪ねる。
痩せたな・・。
「・・上がって・・。」
ポツリと呟いたサツキに促され、僕は仏間に通された。
こんなに静かだったのか。
こんなに寂しい家に、サツキは一人で暮らしているのか。
仏壇に線香を上げながら、思いを巡らせる僕。
線香を上げ終わり後ろを振り向くと、壁に寄りかかって立つサツキが僕を見つめている。
いつの間にか、僕達の身長は同じくらいになっていた。
「・・聞いた・・でしょ・・。」
「・・・」
何も言えなかった。
何を言えばいいのか分からなかった。
「『カコワレモン』になるの・・・。」
「・・・」
「・・カコワレモンになったら、ヤヨイも・・来てくれる・・?」
どんな顔をしてサツキを尋ねればいいのだ。
どんな顔をしてサツキは僕を迎えるのだ。
寂しげで哀しげな、僕ですら見たことのない表情を浮かべたサツキに尋ねられても、何も答えられない。
不意にサツキの眼から涙が流れ落ちた。
「・・・ワァは・・ヌシ・・の・・・」
泣きじゃくるサツキは、それ以上、言葉を紡ぐことが出来なかった。
泣きたいのは僕だ。
床に伏して泣く少女に何もしてあげられない。
何をどうすれば良いのかすら分からない。
姉同然、家族同然の幼馴染が、集落全体の慰みモノにされてしまうのだ。
それなのに僕は、あまりにも無力に過ぎた。
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