【12】理性を取り戻す佳代
佳代には元々そういった素質があったのかもしれない。
そのまま、誰にも気づかれず、自分自身も気づかずに40を過ぎた…それだけのことなのかもしれない。
佳代の職場の男、亮は1度だけ佳代とチャットで出会うが、そこから佳代は男たちの餌へと身を落としている。
例え視姦だとしても、だ。
眺めている男、進はshinと名乗り、佳代の顔こそ知らないが身体は何度も見ている。
それだけではない、夫になるであろう隆さえも、佳代の身体を、どうでも良い動画と引き換えに晒している。
事の発端がどこにあったのかは、わからない。佳代の元々の素質もあっただろう。
ただ、大きなきっかけを作ったのは、亮の歪んだ欲望、歪んだ闇だった。
(このままでは、いつか隆にも知れてしまうかもしれない)
勿論、公の場所で肌を晒すことは、自分の社会的な地位も失うことになりかねない。
(もうやめなくちゃ)
shinとのチャット以来、佳代は思いつめていた。
「今日の晩飯も美味かった」
屈託無く笑う隆。
隆の秘密を知ってしまったが、それを責めるつもりも、咎めるつもりも無い。
(むしろ私が悪い…)
隆の呟いた言葉は、正しいのだと思う。
隙だらけの自分、隆しか知らないはずの身体を、もういったい何人の男の目に晒されたのかわからない。
ryo、shin、そして隆の同僚たち。そこからどのように写真はばら撒かれていくのだろう。
或いは、サイト上に晒され、偶然さえ重なれば、その数は計算することも難しくなる。
普通に肌を晒したのならまだしも、奥深い部分まで…。
(その心の隙をついた痴漢。私を見破っていたのかもしれない。
けれど、私に触れる前に何に触れたかわからない、トイレへ行き手も洗わなかったかもしれない…
そんな汚れた手を私の身体は受け入れた。反応し、声すら出さずに受け入れ、そして溺れた…。)
この汚される感覚を、ずっと前に味わった気がする。いつだったか…。
とても小さな頃の性的な悪戯だ。従兄弟と、お友達と。
佳代自身、それこそ生まれながらにして「汚したくなる対象」だったのかも知れない。
そんな汚れた、汚された自分を、セックスをしなくても一緒にいて大切にしてくれ、守ってくれる隆。
その隆の気持ちに応えなかった自分がいけない。隆の秘密は私を許すための行為なのだから…
だから夜に隆が私に触れるときは、二度と拒んだりしない…。絶対に嫌だとか、ダメなんて言わない。
好きなときに服を脱がせ、好きに触れてくれて構わない。それが隆に出来ることなんだ…。
佳代は隆に微笑を返し、夕食の後片付けを始めた。
隆に見せる姿と、隆がいない時間の自分の姿…ふと佳代は不安を感じていた。
ひょっとして、分裂症?なのではないのか。少し病院にかかるか、気分転換でもした方が良いのではないのか。
このままでは、いつの日か変態行為が世間に知れ渡り、捕まってしまうのではないか。そんな不安も芽生えていた。
次の休みは、隆とは重ならない。病院に行こうか、それとも気晴らしに日帰りで景色でも見てこようか。
病気だとは思いたくない佳代は、疲れている自分をリフレッシュさせようと電車でいける範囲でプランを立て、海を見に行くことにした。
心配するだろうから、隆には買い物と伝えよう。
この計画を思いついたことで、少しだけ佳代は理性の方が打ち勝ち、チャットから離れることが出来た。
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