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神楽町で起きた通り魔事件では、花井孝生という警備員の男性が殺害された。
早乙女町で起きた強姦事件では、青峰由香里という主婦が被害に遭っている。
それぞれの町で起きたこの二つの事件に共通点はない──。
北条にとって、これは一種の賭けであった。刑事の直感とも言えるかもしれない。
双方の現場の位置関係が近距離にあること、発生日時が近いこと、たったこれだけの材料で決めつけてしまうわけにはいかないが、二つの事件はきっとどこかで繋がっているのだと彼は睨んでいた。
だとしたら、その犯人はいったい誰なのか。山積している課題を地道に調べ上げていけば、おのずと解答は得られるはずなのだ。
通り魔事件の現場となった路上に彼は立っていた。アスファルトを掘り起こした跡があちこちにあり、キルト生地を縫い合わせるようにして四角く舗装されている。
それは北条の目から見ても、けして丁寧な仕事とは思えなかった。
花井氏が刺されたとみられる夜の十一時頃に、その付近で犯人らしき人物を目撃したという女性がいた。警察にその一報が入ったのは、事件発覚からおよそ一時間後のことだった。
彼女の証言によれば、自分はちょうど帰宅途中で、現場方向へ歩いていたところ、不審な人物とすれ違ったと言う。
不審な点は二つあった。
一つは、その人物は上下とも黒い服装をしていて、夜中に出歩くにはふさわしくない恰好だったこと。
そしてもう一つ、黒い折りたたみ傘のような物を所持していたことだ。事件当夜は雨など降っていなかったのだ。
また、性別などもわからないと付け加えていた。
その人物が犯人かどうかは不明だが、重要参考人としてマークする必要がありそうだと北条は思った。
「おっとっと」
彼がそんなふうにひょうきんな声を発したのは、内ポケットの携帯電話が震えだしたからだ。相手の番号を確認した上で、北条は電話に出た。
「もしもし、北条です。……ええ、……そろそろあなたから連絡が来るだろうと思っていたところです。……はい、……やはりそうでしたか。……ご協力、ありがとうございました」
電話の相手に礼を述べると、北条はすぐに手帳へ何かを書き加えた。その流れで閉じた手帳で今度は、ぱしん、と手のひらをしっぺ打ちした。
余白のページが数行埋まったことにより、少しだけ重みが増したようにも感じる。
いや、気のせいか──。
そうやっておどける刑事の耳の奥に、先ほどの電話でやりとりした女の声が、まるで蜘蛛の巣のようにねっとりと絡まっていた。
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