『ヴァギナビーンズ症候群』
14
「色気より食い気、なんて言ったらまた怒らせるだけかな」
「知らない」
二人きりで交わす言葉にしては色気が足りないなと、彼は彼女のよく動く口元を見つめながら思った。
三上明徳と橘千佳は『シュペリエル』を出てから彼のアパートに直行して、さっそく戦利品を口に運んでいた。
女の子の匙加減に付き合っていたら、ほんとうに日が暮れてしまうかもしれない。千佳はスプーンの半分ほどの量のプリンをすくって、またそれを時間をかけて口に入れる。
これさえ食べ終わればセックスの流れに持っていけるはずだった。しかし彼女のペースはなかなか上がらない。
アクシデントは突然おとずれた。すくいきれなかった一片のプリンがスプーンから滑り落ちて、彼女の素足の膝にぽとりとこぼれたのだ。
千佳はティッシュのありかを明徳に訊いたが、彼は「そのまま動かないで」と言って彼女のそばに座った。そして千佳の膝枕に顔を埋めるようにして、プリンが乗った部分に口を付ける。
味覚が甘くなったのはプリンのせいだけではなく、彼女からつたわってくる円熟の味でもあった。
始末を終えて明徳が顔を上げれば、そこには赤面した千佳の小柄な顔が待っていた。目は空中で止まり、鼻はひくひくとふくらんでいる。
「大丈夫?」
彼の言葉に反応して、事態の収拾をしようと千佳の脳は再生をはじめる。
「う……うん」
「嘘だ。大丈夫じゃないくせに」
彼はまたプリンをスプーンですくって、それを自分の口に含み、口移しで千佳に食べさせた。とても甘いキスだった。
すぐさま彼女のスカートの中に手を差し込んで、薄い生地のそこをくにゅくにゅと指で押す。さすって、撫でて、押して、線を描く。
キスをしたままだから、喘ぎ声を露わにできないし、息苦しい。それでも性感帯が密集した彼女のそこは、愛撫のつづきが欲しくて一気に濡れていった。
明徳は一旦キスをやめる。
「もう、突然そんなことされたらあん……ん、服がしわくちゃになっちゃう……ふうん」
股間を責められたまま千佳は強気に言った。
それでも彼は指の動きを休めようとしないため、千佳は自ら着衣を脱いで、水色のブラジャーを見せつけた。ショーツも揃いの水色なのだが、彼の興味はそこにとどまらず、とうとう女性器の口の内部に到達していた。
「やいん!」
体の奥から泡立つ快感にめまいがしそうになる。
彼はブラジャーをはずし、胸の谷間にプリンを落として、じゅるじゅると舐めた。その口で乳首に吸い付かれ、千佳はまたしてもへなへなと力を失う。
スカートやショーツにしても、もはやおしゃれを楽しむためのアイテムとは言えない姿で部屋中に散らばっていた。
明徳が千佳のヴァギナを覗き込む。
「ヴァイオリンに名器があるように、きみのここも相当な名器だよ」
そしてそこから彼女の両脚をひっくり返して、爪先を向こう側の床にまで押し付けてやる。膣口が天井を向く姿勢だ。
そこにもまた、行列ができるほど甘くて濃厚なプリンを塗りたくり、彼女を知り尽くしたテクニックを披露した。
ずずず……じゅじゅ……ぴちゃくちゅぐちゅ……くちゅんくちゅん……。
砂糖の甘さよりも、愛液の甘さを堪能する。プリンの舌触りよりも、陰唇と陰核の舌触りを追求する。
千佳の反応も普通ではなくなってきていた。
彼はすぐに裸になって、裸の彼女に覆い被さり、挿入をした。
ペニスが擦れる膣壁が気持ちいい。いじくりまわされる乳首が気持ちいい。香辛料をまぶしたように熱いクリトリスが気持ちいい。キスはソフトでもハードでも気持ちいい。
今日という日を記念日にしてもいいと思えるくらいに、オルガズムはつねにそばにあって、一発一発に重みがある。
そのうち千佳自身にも把握できないほど何度も絶頂にいかされて、大量のザーメンは彼女の体の外と中に注がれた。
タイミングが合えば、将来千佳の体に異変を及ぼすほどの激しいセックスだった。
*
次の日の千佳の誕生日も、けっきょく二人して口裏を合わせ、琴美の想像のおよばないところで密会を果たした。
千佳は会うたびにヴァージンだった。いちばん性犯罪に巻き込まれやすい体質なのではないか、そう疑いたくなるぐらいに、初(うぶ)で人見知りな肌の持ち主なのである。
ほどよく発育した乳房の弾力も、その南半球の垂れないかたちも、乳頭の紅いしこりまでもが処女を装っている。
そこから山あり谷ありの急勾配がつづいて、細いくびれだけで繋がっている下半身から先は、誰にも挿入を許すまいと警戒する仕草で脚を組み替えたりする。
そこを何とか攻め崩したあとの膣への挿入感にしても、その緩みのない肉の質は明徳を容易に悩殺するのだった。
両手両足はきゃぴきゃぴと暴れているくせに、顔のあちこちに皺を寄せて快感に堪えようとする。
ヴァギナは熱くただれて、だくだくと愛液を吐き出す。
千佳が痛そうな表情をすれば彼が訊き、痛くないのだと彼女は首を横に振る。また千佳の痛恨の喘ぎを聞けば彼がたずね、気持ちいいのだと彼女は恥ずかしそうに頷く。
そうして二人は絶頂の飛沫を体中に浴びせ合い、思いつくかぎりの愛の告白をならべ、確約のない契りを交わした。
「三上さんといるときの自分がいちばん好きなの。だけど独占欲があるわけじゃなくて、それはたぶん、お姉ちゃんには適わないってわかってるから」
「きみにはきみの良さがある。だから僕はきみとこうしているだけで、日常から隔離されているみたいな錯覚を味わえるんだ」
「私の良さって、もしかして、あそこ?」
悪戯っぽく千佳の下半身が絡まってくると、明徳は飼い犬を手懐けるように彼女の髪を撫で、肉の根でもってクリトリス経由のヴァギナを掘り下げていった。
「ハッピーバースデー、千佳ちゃん」
*
『ヴァギナビーンズ症候群』
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